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<title>幾千の物語</title>
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<modified>2008-01-27T15:20:08Z</modified>
<tagline>小説他作品集</tagline>
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<copyright>Copyright (c) 2008, 千歳</copyright>
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<title>今あいつどうしてるかな　暖かい部屋で誰かと笑ってるかな</title>
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<modified>2008-01-27T15:20:08Z</modified>
<issued>2008-01-27T15:00:00Z</issued>
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<created>2008-01-27T15:00:00Z</created>
<summary type="text/plain">三十一文字の作品集。</summary>
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<name>千歳</name>
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<dc:subject>350_短歌</dc:subject>
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<![CDATA[<span style="font-family:'ＭＳ Ｐ明朝','平成明朝',serif;">
<br />
2008/01/28<br />
今あいつどうしてるかな　暖かい部屋で誰かと笑ってるかな<br />
<br />
<br />
2008/01/01<br />
もうずっと会えてないけど今年とか会えそうな気が少ししている<br />
<br />
<br />
2007/12/22<br />
イチョウ落ち　敷き詰められて日を浴びて輝く　そうだ　お金が欲しい<br />
<br />
<br />
2007/12/21<br />
酒飲んだ帰りゲロ見て自己暗示　あれはもんじゃで食べるとうまい<br />
<br />
<br />
2007/12/20<br />
足元にたくさん落ちた鳥のフン　悪寒感じて見上げた空に<br />
<br />
<br />
2007/12/19<br />
来る年を迎えるための出費とか　迎えた後のメタボなどとか<br />
<br />
<br />
2007/12/15<br />
寒いのは苦手だけれど待っている　あいつの好きな雪が降るのを<br />
<br />
<br />
2007/12/07<br />
スーツ着る暮らしの中で　気がつけば手の届かない空見上げてる <br />
<br />
<br />
2007/12/06<br />
ふかふかの彼女がくれたマフラーは　優しく絞める毛糸の首輪<br />
<br />
<br />
2007/12/05<br />
過去の傷　心に痛み残すより　優しい気持ち残していたい<br />
<br />
<br />
2007/12/02<br />
行き過ぎて慌てて降りた次の駅　見知らぬ場所はやけに静かで<br />
<br />
<br />
2007/11/22<br />
お酒とか苦手だけれど飲みに行く　だって高知は飲みニケーション<br />
<br />
<br />
2007/11/21<br />
ふるさとの朝の光がまぶしくて　目を細めたらあの日に還る<br />
<br />
<br />
2007/11/20<br />
かえりたい故郷ではない　失ってばかりいたからあのころぼくは<br />
</span>
]]>

</content>
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<title>きよしとよしこの夜</title>
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<modified>2007-12-28T18:09:56Z</modified>
<issued>2007-12-17T12:06:52Z</issued>
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<created>2007-12-17T12:06:52Z</created>
<summary type="text/plain">12月。女の子に一目ぼれした男の子が、クリスマスにかこつけてなんとか女の子のハートを射止めようと奮闘する様子を詠んだ連作短歌。</summary>
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<name>千歳</name>
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<email>ckotoba@ckotoba.com</email>
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<dc:subject>350_短歌</dc:subject>
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<![CDATA[<span style="font-family:'ＭＳ Ｐ明朝','平成明朝',serif;">
<br />
突然の出会いに電気突き抜けた　誘ってみよう12月だし<br />
<br />
<br />
徹夜して考えた言葉君に言う　「僕と今度のクリチュマ・・・」噛んだ<br />
<br />
<br />
クリスマス　興味はないと断られ　僕のツリーは電気のムダか<br />
<br />
<br />
そんなにもジングルベルが嫌いなら　それじゃあええと初日の出とか<br />
<br />
<br />
嬉し泣き　イヴに二人で会えるから　初めて君の笑顔見たから<br />
<br />
<br />
街に咲くネオンはきれい　けど華は君だけでいい　会えて思った<br />
<br />
<br />
君の手を握ろうとして失敗し　携帯握りサンタ写メった<br />
<br />
<br />
十二時の鐘の音の中抱きしめた　聞こえる？　僕の胸の早鐘<br />
<br />
<br />
その笑顔　愛かそれともこの顔にくっきりついた手形を見てか<br />
<br />
<br />
聖なる日　生まれた気持ちまっすぐに伝えた君の返事はイエス<br />
</span>]]>

</content>
</entry>
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<title>ハナちゃん</title>
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<modified>2008-02-07T14:29:54Z</modified>
<issued>2007-12-12T05:47:26Z</issued>
<id>tag:www.cnovels.com,2007://2.18549</id>
<created>2007-12-12T05:47:26Z</created>
<summary type="text/plain">真っ白でフワフワな犬、ハナちゃんを詠んだ連作短歌。</summary>
<author>
<name>千歳</name>
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<email>ckotoba@ckotoba.com</email>
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<dc:subject>350_短歌</dc:subject>
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<![CDATA[<span style="font-family:'ＭＳ Ｐ明朝','平成明朝',serif;">
<br />
飼い犬がどっかの野良に犯されて　５匹の子犬が生まれました<br />
<br />
<br />
「父親はどこの野良だ」と怒り込めながら子犬を優しく抱いた<br />
<br />
<br />
町中が大浸水の片すみで　溺れた犬の鳴き声さがす<br />
<br />
<br />
洪水で一匹だけが生き残り　白い子犬にハナと名付けた<br />
<br />
<br />
子犬連れ　今日も野原でボール投げ　三時間後に嫁が怒った<br />
<br />
<br />
「できちゃった」突然なにを言い出すの　戸惑いながら子犬と遊ぶ<br />
<br />
<br />
パパとしてあるべき姿勢模索中　立った息子に涙流した<br />
<br />
<br />
あれこいつこんな色した犬だっけ　そうだしばらく洗ってないや<br />
<br />
<br />
「パパ」「ママ」と　言葉覚えたわが息子　飼い犬ハナを指差し「クサイ」<br />
<br />
<br />
尻尾振り　去る俺見つめ「次はいつ来てくれるの」とワオンと鳴いた<br />
<br />
<br />
悪いとは思うけど今忙しい　春にはきっと野原に行こう<br />
<br />
<br />
お日様と草の匂いのする野原　あの人がいた夢を見ていた<br />
<br />
<br />
もう少し前にしてたらよかったと動かぬ体ただ抱きしめた<br />
</span>
]]>

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<title>ラブソング - noise Vol.04 -</title>
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<modified>2008-02-28T13:25:38Z</modified>
<issued>2007-07-15T16:00:04Z</issued>
<id>tag:www.cnovels.com,2007://2.18513</id>
<created>2007-07-15T16:00:04Z</created>
<summary type="text/plain"> 　　　１ 　今夜の下北沢でのライブは、アクシデントもありはしたけど、結果的には最高に盛り上がったライブだった。 　ライブが終わって、ライブハウスに残っていたお客さんたちに挨拶をしていると、「よかったよ」とか「最高でした」とかかなりの好感触。 　自主制作したＣＤも、なんだかんだで今日だけで二十枚も売れた。     「あ、遠山先輩おつかれさまでした！」 　後輩の佐藤栞（サトウシオリ）が、そう言って笑...</summary>
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<name>千歳</name>
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<email>ckotoba@ckotoba.com</email>
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<dc:subject>070_noise</dc:subject>
<content type="text/html" mode="escaped" xml:lang="en" xml:base="http://www.cnovels.com/">
<![CDATA[<span style="font-family:'ＭＳ Ｐ明朝','平成明朝',serif;">
　　　１<br />
<br />
　今夜の下北沢でのライブは、アクシデントもありはしたけど、結果的には最高に盛り上がったライブだった。<br />
　ライブが終わって、ライブハウスに残っていたお客さんたちに挨拶をしていると、「よかったよ」とか「最高でした」とかかなりの好感触。<br />
　自主制作したＣＤも、なんだかんだで今日だけで二十枚も売れた。<br />
    「あ、遠山先輩おつかれさまでした！」<br />
　後輩の佐藤栞（サトウシオリ）が、そう言って笑顔で出迎えてくれる。<br />
「今日も見に来てくれたのか」<br />
　俺はちょっと嬉しくなりながら栞のキラキラした眼差しを受け止めた。<br />
　栞は俺が通っている大学の後輩だ。ライブに興味があると言っていたので、この前ライブに誘ったら、すっかり俺たちのバンドを気に入ってくれて、前回今回と、二回連続で来てくれていた。<br />
「もちろんです！　遠山先輩のベース弾いてる姿、かっこよかったですよ♪　あ、ここではオキさんって呼んだほうがいいんでしたっけ？」<br />
　俺の名前は遠山央樹（トウヤマオウキ）。大学では「遠山」と、苗字でそのまま呼ばれることが多かったが、バンド内では「オキ」と呼ばれている。<br />
「んー、別にどっちでもいいぜ」<br />
「じゃあオキさんで♪　あ、乾杯です！」<br />
　栞は楽しそうに俺のことをそう呼びながら、手に持っていたカクテルらしき飲み物を軽く持ち上げた。<br />
「ああ、乾杯」<br />
　俺もそれに応える。<br />
「あたし今日もすごく感動しちゃいました！　あ、ハルトさんだ――ハルトさんおつかれさまです！」<br />
　栞のよく通る声で呼ばれて、ハルトが俺たちの方にやってきた。ハルトはバンドのサイドギターを担当している。本名は結城晴人（ユウキハルト）というんだが、みんな下の名前で「ハルト」と呼んでいた。<br />
　ハルトは栞を見て、すぐに誰か思い出したようだった。<br />
「ええと、きみは確かオキの後輩の、栞ちゃん、だよね？」<br />
「はい！　わあ、覚えててくれたんだ！　嬉しい！」<br />
　栞はとても人懐っこい女の子で、特に自分が気に入った相手に対しては最初からテンションが高い。<br />
　俺の勘では、栞はハルトにかなり興味を持ってるくさかった。シンも「シオリちゃんは、絶対ハルトに気があるね」と、前回のライブの時に言っていたから、絶対そうだと思う。<br />
　なんとなく可愛い後輩をハルトに奪われた感じがして、あまり面白くない心境ではあった。が、ハルトは最近女に振られたばかりで、未だに失恋のショックから立ち直れていないという状況だった。ま、ハルトが元気になるのなら、栞のことはこの際大目に見てやってもいい。<br />
　しかしハルトには今のところあまりそんな気はないらしい。栞の積極的な各種攻撃に多少たじたじの様子だったハルトは、俺に助けを求めるように話を振ってくる。<br />
「なあ、さっき栞ちゃんとも話してたんだけど、今日の打ち上げはどうするのかな？」<br />
「ああ、そうだな。確か外の通りに居酒屋あっただろ？　そこでいいんじゃないか。――何人くらいになりそうだ？」<br />
「今日は結構たくさん友達とか来てくれてるみたいだし、だいたい二十人くらいじゃないか？」<br />
「オーケー。じゃあ俺今から行って、席空いてるか聞いてくるわ」<br />
「え、あ――いってらっしゃい」<br />
　結局俺に助けを求めそこなったハルトは、そのまま当面は栞の攻撃を受け続けることになるのだろう。<br />
　別にハルトを助けてやってもよかったんだけど、ここはやっぱり可愛い後輩の味方をしてやらないとな。去り際にこっそり栞と視線を合わせる。栞が愛嬌たっぷりに、俺にウインクして見せた。<br />
　あれくらい明るくて積極的な子がハルトには合ってるかもしれないと、改めて考える。<br />
　ハルトは優しい奴だが、奥手過ぎて幸せを逃すタイプの男だからな。栞くらいの子が、あいつにはたぶんちょうどいい。<br />
<br />
　　　２<br />
<br />
　その後、俺は目当ての居酒屋で首尾よく座席を確保し、打ち上げ参加希望者を店まで誘導した。<br />
　八人用の大きなテーブルを三つ使って、各自思い思いのテーブルに座ってもらう。<br />
　大体揃ったところで乾杯する。乾杯の音頭はシンにやらせることにした。シンはうちのバンドのボーカル兼リードギターだ。女みたいな顔と甘い歌声で、ライブのたびに新たな女性ファンを獲得してくれるうちの広告塔でもある。ちょっと、いやかなり女癖が悪いのが欠点だが、これまで女がらみで大きなトラブルが発生していないところを見ると、あいつはあいつなりにきっとうまく立ち回ってるんだろう。<br />
　ちなみに本名を橘真太郎（タチバナシンタロウ）というんだけど、大体のやつは「シン」と呼ぶ。真太郎なんて名前、ちょっと長すぎていちいち呼ぶ気になれないよな。<br />
　俺に乾杯を促されたシンは、おとなしくビールグラスを持って口上を始めた。<br />
　シン、お前ここんとこ打ち上げの参加をサボってばかりだったからな。今日は働いてもらうぞ。覚悟しやがれ。<br />
<br />
『乾杯！』<br />
<br />
　唱和して打ち上げが始まった。特になにかのイベントを用意しているわけじゃないから、あとは適当に飲んでもらって話してもらって、それでいい時間になったら解散だ。<br />
　俺のゲストは今日は栞しかいないが、栞は当然のようにハルトの隣の席を確保して、さっきから半ばハルトを独占している状態だ。もう俺の出番は必要なさそうだ。そんなわけで、これでようやく今日のライブがひと段落ついた気分になった俺は、ロックの焼酎片手に一人くつろいでいた。<br />
　そんなときに、隣に座っていたアヤが前触れもなく聞いてきたんだ。<br />
「ねえ、オキくん。あの人知ってる？　あの、シンくんの隣に座っている人」<br />
　アヤがそう言って、シンの座っているテーブルのほうをこっそり指差した。<br />
　おいおい、また新しい女に手を出してるのか？　しかもアヤが見てる前で！<br />
　アヤはシンの恋人だ。……本当は恋人という言葉で片付けるには色々複雑な事情があるんだけど、まあそんなようなもんだ。<br />
　そんなアヤの目の前で別の女の子にちょっかい出してるんだとしたら、また後で血を見ることになりかねない。シンの横に座っている女性に、慌てて目を向ける。ああ、なんだ。<br />
「ああ、優里さんか。シンの姉さんだよ」<br />
　確かシンの三つ上だから、今二十四歳のはずだ。髪が長いストレートで、大人っぽい。少し下がった目じりがシンに良く似ていた。<br />
「……ふうん、お姉さんか」<br />
　さっきのライブで、優里さんは突然ライブハウスに現れた。ちょうど最後の曲の演奏を開始したところだった。<br />
　優里さんがくることを、シンも全く予測してなかったんだろう。優里さんがライブハウスに入ってきたことに気づいたシンは、歌を歌うタイミングで歌詞ではなく優里さんの名前を思いっきり叫びやがった。まったく、あの時はさすがに驚いたな。<br />
　取り繕いようもなく、演奏は一時中断。ライブハウスは一時騒然となってしまった。<br />
　けど、それがなぜか良いほうに働いて、お客さんたちの励ましを受けながら、最後には最高の演奏が出来たんだけどな。<br />
　優里さんは快活そうな笑顔でなにかを喋っている。が、俺と、隣に座っているアヤまでは彼女の声は届かない。<br />
　対照的にシンはとても居心地悪そうにしていた。いつもなら人一倍騒ぐか、さっき俺が恐れたように目新しい女の子にちょっかい出してアヤに睨まれたりしているのに、今日はまるで借りてきた猫みたいにじっとして動かない。<br />
　優里さんが冗談らしきことを言ってみんなを笑わせてるのに対して、そのたびにシンは真っ赤になったり、困った顔でなにか言い返したりしている。<br />
「まるで別人だな」<br />
　俺は呆れた気持ちになりながら、思ったことをそのまま声に出した。<br />
「だよねー！　なんか調子狂っちゃう」<br />
　そのとき、シンが優里さんをチラリと見た。俺は衝撃を隠しきれずうつむいた。<br />
　シンの優里さんを見る目は、姉を見る眼差しとしてはあまりにも熱を持ちすぎていた。<br />
<br />
　優里さんに対するシンの気持ちを俺は知っていた。ずっと前に、シンに打ち明けられていたからな。<br />
<br />
　シンは、優里さんのことを姉としてではなく、一人の女性として見ていた。<br />
　もちろん優里さんに、シンはそのことを伝えていない。伝えていたとしたら、こんな風になんでもない顔をして二人隣り合ってはいられないだろう。<br />
<br />
　げ、そうだ！<br />
　そのことに気づいて、俺はアヤを見た。<br />
　やっぱり……アヤは俺の隣で、青ざめた顔でシンを凝視している。<br />
　今のシンの顔に、さっき優里を見つめたときに垣間見せたあの情熱的な様子は微塵も見られなかった。<br />
　けれど、それでもあの一瞬でアヤには十分だったんだろう。<br />
「アヤ、どうしたんだ」<br />
　俺は白々しくそう声をかける。<br />
「――あ、うん。なんでもない」<br />
　そうは答えてきたものの、アヤは相変わらずシンを見るのをやめようとはしなかった。<br />
　シンの優里さんへの気持ちを、アヤはたぶん今、確信しているだろう。<br />
　再度アヤに話しかけようかどうか考えて、結局それはやめておくことにする。<br />
　俺は目の前の焼酎をくいっと飲み干した。<br />
　打ち上げが終わるまで、アヤはほとんどずっと、シンを見ることをやめなかった。<br />
<br />
　　　３<br />
<br />
「ようオキ、久しぶり」<br />
　打ち上げが終わり、一人になって、さあこれからどうしよう、一人でどっかに飲みに行くかな、なんて考えていたら洋輔にばったり出くわした。<br />
「よう」<br />
　俺も洋輔と同じように、片手を軽く上げて応える。<br />
「一人か？」<br />
　洋輔がそう聞いてくるのに俺はうなずいた。<br />
「そっちとは違ってな。俺は孤独なんだよ」<br />
　今の洋輔の様子を、そんなふうに揶揄してやる。<br />
　洋輔は女と抱き合う形で俺と向かい合っていた。まったく、別に彼女がいるくせに、こいつといい、シンといい、どいつもこいつも救いようがない。<br />
「そんなんじゃねえよ――そうだ、せっかくだからこれから一杯付き合えよ」<br />
「いや、それはお邪魔になりそうだからやめておくよ」<br />
「そんなの別に気にすることねえよ」<br />
　洋輔は自分の首にしがみついていた女を引き剥がすと言った。<br />
「こいつとは今別れるところだったんだ」<br />
　その言いようを聞いて、女が反論する。<br />
「なに言ってんの洋輔くん？　今日はずっと一緒にいてくれるって、さっき言ったばかりなのに！」<br />
「悪い悪い、こいつ、俺の親友なんだ。また今度埋め合わせするからさ」<br />
　洋輔はすまなそうに女に謝りながら、じっと女の目を見つめた。<br />
「な、今日はこいつと二人で飲みたいんだ。わかってくれよ」<br />
「――もう。またそんな目で見る。もう騙されないんだから」<br />
「騙してなんかねえよ」<br />
　ささやくような甘い声で洋輔は言った。女の全身の力が抜けたように俺には見えた。<br />
「また明日連絡するから、な？」<br />
「……ぜったいだからね？」<br />
　女はそれ以上抗議することなく、軽いキスを交わして一人駅のほうに去っていった。去り際に、俺に挑戦的に微笑みかけてから。<br />
「まいったよ」<br />
　洋輔は遠ざかっていく女の後姿を指差して言った。<br />
「昔付き合ってた女なんだけどな。未だに俺に未練があるらしい」<br />
「……お前、そのうち刺されるぞ」<br />
　俺がそう言うと、洋輔は軽く鼻を鳴らす。長い髪をかきあげ、流し目気味に俺を見た。<br />
「フン。そんなヘマはしねえよ。――なあ、久しぶりにあの店に行こうぜ。男二人で飲むにはなかなかいい店だろ？」<br />
<br />
　洋輔と連れ立って、俺は昔行きつけだったバーに入った。洋輔とバンドを組んでいた頃によく来ていた店だ。<br />
　二人してカウンターのいつもの位置に座る。<br />
「乾杯。俺たちに」<br />
　洋輔はそう言うとビールを掲げた。ビールグラスを合わせ、ひとしきり話した後俺は何気なく聞いた。<br />
「リリは元気か？」<br />
「ああ、元気だよ。今日はメールしかしてないけど」<br />
「いったん別れたお前たちが、また付き合い始めるとは思わなかったよ」<br />
「うん、俺も思ってなかった」<br />
　洋輔は素直に認めた。<br />
「けどな、男と女ってのはそういうもんだろ？　何がきっかけでどうなるかなんてわからない。付き合うときも、別れるときも」<br />
　洋輔にはリリという彼女がいる。一度別れた二人は、今またよりを戻していた。<br />
　リリは少し前まではうちのバンドのライブにもよく来てくれていた女の子だ。その頃リリは、サイドギターを担当しているハルトのガールフレンドだった。ライブだけでなく、バンドの練習にもハルトとよく顔を出していた。<br />
　ハルトとリリはいずれ付き合うようになると、俺は当時思っていた。<br />
　ハルトは誰が見てもわかるくらいリリにぞっこんだったし、リリ自身、ハルトのことを必要としていたはずだった。<br />
　それが、気がつけばリリは洋輔とまた付き合うようになっていた。以来、俺たちのバンドの練習やライブには、リリは一度も顔を出していない。<br />
「お前らがあいつのことをどう思ってんのか知らねえが、リリはいい女だよ。ただ、弱い女なんだ。誰かが支えてやらないといけない。だが支える価値がある。そんな女だ」<br />
　洋輔のその言葉に、意外なくらいリリへの優しさを感じて、俺は思い出した。<br />
「そういえば、昔からお前の周りには、そんな女ばっかり集まってきたな」<br />
「女は嗅覚で、男を見分けるのさ」<br />
　当たり前のことを言うような口調で、洋輔は答える。<br />
「さっきの女もそうだ。周りの男がだらしねえから、いつまでたっても何かあったら俺を頼ってくる。こんな俺を――」<br />
　言いながら洋輔は自分の左手を眺めた。<br />
「――いつまでも頼ってくる。俺がいないと生きてられないみたいな顔して」<br />
　俺は言う言葉が見つからず、かわりにビールを口にした。<br />
「そういやハルトは元気か？」<br />
　俺がリリのことを聞いたように、洋輔はハルトのことをそう聞いてきた。<br />
「気にしてるのか？　――もしかして、悪いと思ってんのか、ハルトに？」<br />
「まさか。俺がリリと別れていた数ヶ月の間に、リリを自分のものにできなかったのは、あいつがとろかったからだ。俺が悪いと思う理由がねえよ」<br />
　ハルトは優しいやつなんだ。そう言おうとして、俺は口をつぐむ。そんなことを言っても意味がないと思った。<br />
　この店に来る前からすでにそれなりに酔っ払っていた洋輔は饒舌だった。<br />
「あいつは根っからの根性なしだよ。臆病すぎて危ない橋は渡れねえのさ。そんなんじゃ、自分の好きな女のことも守れねえよ。見ろよ！　リリだって、俺みたいなろくでなしにまた奪われちまった！　くだらねえ野郎だ」<br />
　思わず俺は言った。<br />
「……あいつは、優しいやつなんだ」<br />
　ビールを飲み干すために洋輔は顔を上げた。泡が口の端を伝って、仕立ての良い白いシャツに落ちる。それを拭こうともせず、空いたグラスを乱暴にテーブルに置いた。<br />
「知ってるよ。けどな、ただ優しいだけじゃ、女一人幸せにしてやれねえんだ」<br />
　それが真実だ。そう言うと、洋輔は黙り込んだ。<br />
<br />
　結局、俺と洋輔は始発の時間までバーで飲み明かした。その間に洋輔は幾度となくハルトのことを俺に聞いてきた。<br />
　そのたびに俺は丁寧に答えてやった。うん、今もあの店でバイトしてるよ。少し前に軽の中古車買ったんだ。ギターはまたうまくなった。最近はドラムの練習も少ししてるな。今日はハルトの作った曲をライブの最後に持ってきたんだ。最高に盛り上がったよ――。<br />
　だろう。あいつの作る曲は悪くない。まあたいていはな。洋輔はとても嬉しそうに、ろれつの怪しくなった口調で言う。<br />
　めんどくさい奴らだ。俺は後半かなりうんざりしていたが、聞かれるたびに、ハルトの最新情報を洋輔に伝え続けた。洋輔は女の話をするときよりよほど熱心にそれを聞く。本当にめんどくさい奴らだ。<br />
　午前五時。まともに歩けなくなった洋輔に肩を貸しながら外に出ると、空はまだ暗かった。秋の風が冷たく吹きすぎていく。<br />
「寒い。ここはアラスカか？」<br />
「大げさだよ」<br />
　洋輔を何とか一人で立たせようと苦心しながら、俺は的確につっこみを入れる。<br />
「本当に寒い」<br />
　洋輔はブルブル震えながら右手で左手をさすった。<br />
「なあオキ。あの頃、楽しかったなあ。お前がベースで、ハルトがギターボーカルで、俺がドラムでさ。イカしたバンドだったよな。俺たち」<br />
「そうだな」<br />
「寒い」<br />
　洋輔はまた言った。左手をさすり続けている。<br />
「痛むのか？」<br />
　俺は聞いた。<br />
「別に」<br />
　洋輔は短く応える。彼の左手は一年前の事故の時に、ほとんど握力をなくしていた。<br />
　ドラムスティックも満足に握れなくなった古傷だらけの左手を、洋輔は大事そうにさすり続けた。<br />
<br />
　　　４<br />
<br />
　下北沢のライブから二週間が経った。<br />
　今日は貸しスタジオで練習する日だった。次のライブも四日後に控えているし、みな追い込みの気分で、それなりに一生懸命練習している。<br />
　二時間くらいぶっ通しで練習して、少し休憩をとることにした。<br />
「オキ、今日練習終わったら飲みに行かない？」<br />
　タバコを吸っていると、シンが俺にそう提案してきて俺は驚いた。<br />
「珍しいな。お前が飲みに誘ってくるなんて。お前酒苦手じゃなかったっけ？」<br />
「最近良く飲むんだ。ちょっとは強くなってきたよ」<br />
　まじまじと俺はシンを見る。<br />
「なんかあったのか？」<br />
「うーん、まあ、ちょっとね」<br />
　思っていることをいつもためらわず言うシンにしては、それはちょっと珍しいくらい歯切れの悪い答えだった。<br />
<br />
　練習の後、貸しスタジオの近所にある居酒屋に、シンと二人で入った。<br />
「おつかれ乾杯！」<br />
　シンがそう言い、俺たちは音を立てて乾杯した。<br />
　シンはしばらくバンドの話とか最近ちょっかいを出している女の話とかを大して身の入らない様子でずっと喋っていたが、レモンサワーを二杯も飲んだところで、これ以上酔うとまともに話が出来なくなるとでも思ったんだろう。ようやく本題に入ってきた。<br />
「最近、アヤと連絡が取れないんだ」<br />
「そうなのか？」<br />
「うん。メールしても返事返ってこないし、電話しても出てくれない。ほら、下北沢のライブの後からだよ。僕、なんかアヤを怒らせることしちゃったのかなあ。――オキ、アヤからなんか聞いてない？」<br />
「……なんで俺に聞くんだ？」<br />
「オキとアヤ、結構仲いいじゃん。知ってるよ僕は。アヤはなんでもオキに相談するんだ」<br />
「悪いな、俺のほうにも特に連絡は来てないよ」<br />
「そうかあ」<br />
　シンは仕方なさそうに笑った。<br />
　アヤからなにも連絡が来てないのは本当だった。だけど、俺はアヤがシンからのメールや電話を無視する理由をたぶん知っていた。<br />
　どう考えてもあの下北沢での打ち上げの時、シンが優里さんを見た、あの熱すぎる視線が原因だろう。<br />
　アヤは知ってしまったんだ。シンが本当は、誰のことを好きなのかということを。<br />
「やっぱり僕は、アヤに振られちゃったのかな」<br />
　ため息をつきながらそう言うシンに俺はわざと明るい声で言った。<br />
「別に女はアヤだけじゃないだろ？　特にお前の場合はさ。さっきも別の女の話を楽しそうにしてたじゃんか」<br />
「そうだけど……けどどうしたのかな。どうもダメみたいなんだ。この前も、最近知り合った女の子とＨしたんだけど、夢中になれないの。昨日も別の子で試してみたけどダメだった。気持ち良くないんだ。ていうかむしろ痛いんだ。ここがさ」<br />
　胸を押さえて、シンは寂しそうに笑った。<br />
「――僕、アヤ以外の女の子とはしたくないみたい。だからＨの代わりに酒に溺れようと思ってさ。だからここんとこ、お酒ばかり飲んでる」<br />
　俺は頭が痛くなった。飲みすぎのせいとかでは全然なく。<br />
「お前が優里さんのことを好きなのは知ってるぜ。何年も前にお前から聞いたからな。ようは、アヤは優里さんの代わりだったんだろ？　アヤにも、付き合い始める前に言ったんだよな。アヤのことは好きだけど、あ、愛せないって」<br />
　愛せない、って部分を口にするときに恥ずかしさのあまりどもってしまう。こんな恥ずかしい言葉を、女を目の前にしてる時以外に言う羽目になるとは思わなかった。<br />
「オキはやっぱりなんでも知ってるなあ」<br />
　エヘヘと笑いながらシンは言う。笑ってる場合じゃないっての！<br />
「うん。アヤには付き合う前にちゃんと言ったよ。好きだけど愛せない。僕には他に一番好きな人がいるんだって。優里のことが好きなんだとは、さすがに言ってないけど」<br />
　シンは自分の姉のことを、たいてい優里と呼び捨てにする。<br />
「今はどうなんだ？」<br />
　この際、単刀直入に俺は聞くことにした。<br />
「今もアヤのことは――その、愛してないのか？　優里さんのことだけを、お前はあ、愛してるのか？」<br />
「わかんない」<br />
　俺に何度も恥ずかしい言葉を言わせながら、シンは全く俺の期待に応えない返事をした。ムカムカムカ。俺はいい加減腹が立ってきた。<br />
　さすがにそんな曖昧な言葉では俺が納得しないと気づいたんだろう。シンは慌てて言葉を続ける。<br />
「優里のことは今でも一番好きなんだと思う。もうずっと好きでいすぎて、体の一部になっちゃったみたいに。優里のことが好きだって気持ちは、それくらい僕にとっては自然な気持ちなんだよ。けどさ、アヤのことは正直よくわかんないんだ。アヤは僕にとって、とても大事な女の子だと思う。一緒にいると楽しいんだ。Ｈしてると、その間は優里のことも完全に忘れられるくらいアヤに夢中になるし。好きだよアヤのこと。けどさ、やっぱり僕は優里のことを愛してるし、アヤへの気持ちはそれとは違うんだ」<br />
　俺はため息をついて、今の心境を正直に口にした。<br />
「……お前の言うことは、俺にはややこし過ぎて、よくわからん」<br />
「僕にもよくわからないんだよ」<br />
　困ったように言って、シンは三杯目のレモンサワーを飲んだ。<br />
「けどな、アヤのことをお前がどれだけ必要としているか、それならよくわかってる」<br />
「え、本当に？」<br />
「ああ、じゃないとあんな歌、作れねえよ」<br />
<br />
　次の日、俺はアヤの携帯電話に電話した。<br />
『はい』<br />
「なんでシンに連絡しないんだ？」<br />
『……オキくんには関係ないでしょ』<br />
　関係ないだと！？　誰のおかげで、昨日あっけなく酔いつぶれたシンを介抱する羽目になったと思ってんだ！<br />
「本当に、関係ないと思うのか？」<br />
　沈黙。アヤは泣きそうな声で言った。<br />
『もうイヤになっちゃったの。アヤね、シンくんのこと、心のどっかで期待してたんだと思う。いつかアヤのことを一番好きになってくれるんじゃないかって、期待してたの。けどもう無理！　だって――！』<br />
　そっから先は声にならないようだった。電話の向こうで、アヤは泣き続ける。<br />
　どれくらい経っただろう。ようやくアヤが多少落ち着いたのを見計らって、俺は言った。<br />
「三日後のライブには、絶対来いよ」<br />
『やだ。もう行かない。決めたの。シンくんとはもう会わないって』<br />
「だったら、ちゃんとシンにそう言ってやれ」<br />
『言う義理ないもん。なんでアヤのこと最後まで愛してくれなかったひとに、そんなこと言ってあげなきゃいけないの』<br />
「三日後のライブで、新曲を一曲やるんだ」<br />
『だからそれが――』<br />
　アヤが言い募ろうとしたのをさえぎって俺は続けた。<br />
「シンが作った曲だ」<br />
『――え？』<br />
「あいつが、初めて自分と向き合って作った曲だ。もう会わないのなら会わないでいい。別れの言葉を伝えないのなら、それでもいい。けど、せっかくあいつが、初めて自分自身と向き合いながら作った曲なんだ。たぶん、一番お前に聞いてもらいたいんだと思う。だから聞いてやれよ」<br />
　返事をせずに、アヤは電話を切った。<br />
　ため息をつく。<br />
　めんどくさい奴らだ。誰も彼も。そう思った。<br />
　人の世話をついつい焼いてしまう自分の性格が、いい加減恨めしい。<br />
<br />
　　　５<br />
<br />
　三日後。ライブの夜。<br />
　この夜のライブも、場所は前回と同じだった。下北沢のライブハウス。<br />
　お客さんもそこそこ来てくれて、俺たちのテンションも結構高かった。<br />
　今日も後輩の栞は来てくれていた。もはや目当ては俺の演奏ではないだろうけどな。<br />
　あと、ちょっと驚いたことに、ライブハウスの一番奥、隅のほうに洋輔がいた。一年前の事故で左手を負傷してドラムを続けられなくなってから、洋輔は音楽を完全に断っていたはずだ。<br />
　忌まわしい事故だった。あの事故で洋輔は左手の自由を失い、音楽を失い、やけになって酒と女に溺れて、やがてリリも失った。まあ、リリとは最近よりを戻したけどな。<br />
　どうやらいまだに酒と女にはだらしないみたいだが、それでも洋輔はやっと、かつての自分を取り戻そうとし始めているのかもしれない。そう思うと俺は少し嬉しくなった。<br />
　洋輔は今日は黒いシャツを着ていた。長い茶髪を若干前にたらし気味にして、つばのついた帽子をかぶっている。おまけに暗いライブハウスの中だというのに薄い色のサングラスをしているのは、もしかして顔を隠しているつもりなのだろうか。<br />
　けど確かに俺以外のメンバーは洋輔に気づいていないようだから、それは成功しているのかもしれない。<br />
　もしハルトが洋輔を見つけたら、ハルトの演奏に支障がでないと限らないから、洋輔のその判断はありがたかった。<br />
　シンの姉の優里さんは来ていなかった。それもそのはず、シンに聞いたところによると、優里さんは一週間前に旦那さんのいるアメリカに帰ったらしい。<br />
　アヤはまだ来ていない。<br />
　今日の俺たちの演奏は六曲。シンの作った新曲は四曲目に演奏する予定だった。<br />
　演奏が始まった。<br />
　一曲目が終わり、二曲目が終わる。それでもアヤはこなかった。<br />
　そのまま三曲目に入る。歌は『吹く風のように』。前回は最後に披露した歌だ。<br />
<br />
『俺は風のようでなくていいんだ』<br />
<br />
　そのフレーズと共に演奏が終わる。客の反応もいい。しかしこの歌をライブで歌うと、シンのやつ必ず泣くな。そんなにこの歌に感情移入してるんだろうか。ハルトの作ったこの歌は、シン本人とはかなりイメージ違うと思うんだが。<br />
　いよいよ次は四曲目だ。シンが初めて作った歌。<br />
　その前にＭＣを入れる。中盤のＭＣはたいてい俺の役目だ。ちょっとした雑談と、次のライブの告知。アヤはまだ姿を見せない。俺はそれらをできるだけゆっくりと喋った。<br />
　けれど別に俺はＭＣが得意なわけでも、好きなわけでもない。そんなに引き伸ばせるものじゃなかった。しかも次のバンドもあるから、時間自体に制限がある。<br />
　もうこれ以上引き伸ばせない。俺は思い切って言った。<br />
「では次の曲を聞いてください。曲はGLASS EYES」<br />
　お客さんがくれる拍手の中、しかしバンドのメンバーは全員戸惑っていた。<br />
「おい、オキ。曲順間違えてるよ」<br />
　ハルトが俺に耳打ちする。<br />
「わかってる。――やっぱりシンの曲は、一番最後がいいんじゃないかって、さっき思ったんだ。だから突然で悪いけど、曲順変えさせてくれないか？」<br />
「ええ、あの新曲を最後にやるのか？　まだ一度もお客さんの反応を見てない曲を最後に持ってくるって、結構冒険じゃないか？」<br />
「頼むよ。俺の勘を信じてくれ」<br />
　アヤがくるのをギリギリまで待ちたいんだ。とは、俺は言えなかった。<br />
　ハルトはもしかしたら、そういうバンドを私物化したような発言を嫌うかもしれないからな。代わりに俺は、精一杯強い目でハルトに訴えかけた。<br />
　ハルトは俺の目に、何かを感じてくれたようだった。<br />
「……わかった。シン、次はGLASS EYESだ。シンの曲は最後にする」<br />
「……うん、わかった」<br />
「サンキュー」<br />
　俺はハルトに礼を言った。<br />
「気にするなよ。どうせなんか理由があるんだろ？　さっき言ったのとは別の」<br />
　ハルトの笑顔に、俺は思わず目を伏せてしまう。<br />
　洋輔の言うとおり、ハルトは優しいやつだ。優しすぎて、人の気持ちを思いやるあまり、たまに臆病すぎるように思えることもある。<br />
　けれどこのバンドで、ハルトの決定にむやみに逆らうやつは一人もいない。<br />
　それはハルトが、いつもバンドのことをとても大事に考えてくれていると、みんなが信頼しているからだ。バンドのことや、俺たち一人ひとりのことを、こいつはいつも一番に考えてくれている。俺たちのそんな期待を、ハルトはただの一度も裏切ったことはなかった。俺は改めてそれを思い出した。<br />
　ハルトは優しいやつだ。そして信じられるやつだ。洋輔、お前もハルトのそんなところが好きなんだろう？<br />
<br />
　なかなか曲を始めないのに、お客さんがざわつき始めていた。<br />
　そのざわつきを押さえつけるように四曲目が始まった。<br />
　GLASS EYES。硬質の音を集めた、俺たちの持ち歌の中では一番ハードなナンバーだ。<br />
　とても速い、オーディエンスのテンションを煽る曲だ。同時に、演奏側のテンションもどんどんあがっていく。<br />
　みんなが無意識のうちに好き勝手な暴走をしようとする中、けど俺の音はそれを制し続ける。<br />
　どんなときも、走らず、ひたすら淡々と音を出す。全体の調整役。それが俺の役割だった。そんな地味な役割が、けど俺は結構気に入っていた。<br />
　なんだかんだ言って随分世話好きな性格の俺に、このベースってやつはたぶん合っているんだと思う。<br />
　意味もなく走ろうとするメンバーを、ベースの音で制御する。ためて。ためて。もっとためて。<br />
　ほらここだ！　俺は解放した。<br />
<br />
　シン！<br />
　ベースの弦を叩きつけるように弾いた。この音でシンのやつを怒鳴りつける。<br />
　ほら、歌え！！<br />
<br />
　シンのシャウトが、最高のタイミングで爆発した！<br />
<br />
　オーディエンスが一気に盛り上がる。ドラムのリクと一瞬目を合わせ、リズム隊同士でつかのま喜びを分かち合った。<br />
　そのままの勢いで四曲目が終わり、音を途切れさせずに五曲目に入る。本当だったら最後だった曲だ。<br />
　淡々とベースを弾きながら、俺はライブハウスの防音扉から目を離さなかった。<br />
　アヤ。くるんだ。俺は願った。<br />
<br />
　しかし、五曲目が終わってもアヤはこなかった。<br />
<br />
　お客さんの歓声は今までで一番大きなものだった。本当はこの歓声でライブが終わる予定だったんだけどな。<br />
　けどあと一曲。たった一人の女の子に、聞かせたかった歌がある。<br />
<br />
　息を整えて、シンがステージからお客さんに向けて言った。<br />
「最後の曲は、新曲です」<br />
　最高潮に盛り上がった客は、大きな拍手をくれる。<br />
　シンは満面の笑みを浮かべた。<br />
「この曲は、本当は一番聞かせたい人がいたんだけど。けどその子は今日は来てくれてなくて。だからその子に聞いてもらうのはまた次の機会かなって思ってます」<br />
　振られたのか？　客の一人がそんなことを言った。どっと笑いが起きる。シンはニヤリとした。<br />
「ま、人生そんなこともあるよね。じゃ歌います。新曲。CAPACITY OVER」<br />
<br />
　ギターソロから入る。<br />
　ギターの音だけが鳴り響く中、シンは歌い始めた。<br />
<br />
『廃墟の中に　立ちすくむ冷たい鉄塔<br />
　風に揺れる途切れたロープ<br />
　あんなものにでもぶら下がってみたら<br />
　こんな痛みなんて　忘れられるのだろうか』<br />
<br />
　あの日、この歌をシンから初めて聴かされたとき、すぐにこれは優里さんとアヤのことを歌っているのだとわかった。<br />
（アヤに聴いてもらいたいんだ）<br />
　歌い終えた後、少し照れくさそうにしてシンは言っていた。<br />
<br />
　徐々に、俺も含めた他のメンバーの音が入り始める。<br />
　曲のペースが一気に上がっていく。<br />
<br />
『巨大な交差点　向かってくる人たちはみんな<br />
　それぞれあさってのなにかを見てた<br />
　孤独を知って　立ちすくみそうになる<br />
　俯いてロボットのように　足を動かした<br />
　灰色の空は落ちてこない』<br />
<br />
　そして最初のサビの部分。<br />
<br />
『終わらない夜の中で<br />
　終わらない雨に濡れて<br />
　いつも差し伸べられている手も　僕は握れない<br />
　想いに気づかれるのが怖くて』<br />
<br />
　優里さんへのどうにもならない気持ち。<br />
　シンはいったいいつから、こんな気持ちを自分の中に抱え込んでいたんだろうか。<br />
<br />
『逃げ出した僕を　相変わらず<br />
　僕のとは違う愛を込め　見守ってくれている<br />
　そんな目で見られたくないから　逃げ出したのに』<br />
<br />
　間奏に入り、ギターソロ。悲しいくらい澄んだシンのギターの音が、突き刺すように閉ざされた空間を疾走する。<br />
<br />
　その時ライブハウスの防音扉が開いた。なにかの予感がして俺は開いた扉を見た。<br />
　やっぱり。<br />
　そこにはアヤがいた。<br />
　じゃあ無駄ではなかったんだな。喜びがベースの音に反映されようとしていたのを、意志の力で制御する。<br />
<br />
　シンも、アヤが来てくれたことに気がついたようだ。<br />
　当たり前だ。シンがアヤに、気づかないわけがない。<br />
<br />
　シン。お前は好きに弾け。<br />
　ベースの音に、俺はそんな気持ちを込めた。<br />
　跳ね上がるようなリードギターの旋律がベースを踏み台に踊る。シンは歌った。<br />
<br />
『歌を歌って　誰かと体だけ繋げて<br />
　キャパシティの足りないハートは<br />
　一時の喜びさえもすぐになくす<br />
　だからまた歌って　別の体を求めた』<br />
<br />
　アヤはじっとシンを見ていた。<br />
　これがたぶんアヤにとって、最後のシンの姿になる。少なくともアヤはそう思ってここまで来たんだろう。<br />
　そんなアヤを、シンは同じように熱い視線で見返していた。<br />
<br />
『時の止まった場所　歌いながら出会った君は<br />
　こんなにもなにも持たない僕から<br />
　いったい何を　見つけてくれたんだろう<br />
　愛せないと言った僕を　それでもどうして<br />
　そんなにまっすぐ見てくれるの』<br />
<br />
　二回目のサビに向かって、バンドのメンバー全員の出す音が俺の手を離れ、どうしようもなくシンの出す音に引き込まれていく。俺自身も。<br />
　クソ――！<br />
　微かな敗北感。そして圧倒的な喜び。<br />
　もうなるようになれ！　クソ、やっぱりこいつら最高だ――！<br />
<br />
『終わらない夜を越えて<br />
　終わらない雨を越えて<br />
　君が差し伸べてくれた手を　僕はそっと握る<br />
　キャパシティの足りないハートに<br />
　精一杯愛を　詰め込んで』<br />
<br />
　いつの間にかアヤは泣いていた。<br />
　シンも泣いている。本当に良く泣く奴だよな。<br />
<br />
『そしてやっぱりこぼれていく愛を　絶望と共に捨てていく<br />
　かけがえないものと　知っているのに』<br />
<br />
　――シン。お前は気づいてないのか？<br />
　ただアヤのことを思って歌う歌が、空気だけでなく、これほど人の心を震わせてるってのに。<br />
　この歌に愛がないとでも？　お前が歌っているのは、切ない、純粋なラブソングじゃないか。<br />
<br />
『終わらない夜を越えて<br />
　終わらない雨を越えて<br />
　君が差し伸べてくれた手を　そっと握り締める<br />
　またこぼれ落ちるのを知りながら――』<br />
<br />
　アヤ。届いたよな。<br />
　シンの気持ち――お前に。<br />
<br />
『それでも精一杯　握り締めたんだ』<br />
<br />
　最後の一音が空気を震わすのを終えて。長い拍手の中、シンとアヤはお互いを見詰め続けていた。<br />
　アヤがゆっくりと微笑んだ。右手を胸の前に出し、しぐさと口の動きでシンにその言葉を伝えた。<br />
<br />
　バイバイ。<br />
<br />
　アヤがそう言ったのがわかって、シンは悲しげに微笑む。<br />
　嬉しいときも、悲しいときも、いつからこいつは、どんなときでも笑顔を向けることしかできなくなってしまったんだろう。<br />
<br />
　けど、そのときアヤの口が、また開いたんだ。<br />
<br />
　ま・た・ね。<br />
<br />
「――ええ、それどういう意味！？」<br />
　けれどそのシンの疑問には答えてくれず、アヤは悪戯っぽい笑みを残して、俺たちに背を向けて去っていった。<br />
　呆然としているシンを、俺は少し気の毒な思いで見た。<br />
　たった三音。<br />
　それだけで、今シンの心は気の毒なくらいかき乱されているんだろう。俺はため息をつく。<br />
　やっぱり女には、男は敵わない。<br />
　けどまあ、とりあえずはよかったな、シン。俺はもういい加減付き合ってられねえから、後はてめえで何とかしろ。<br />
　ひと仕事終えたという満足感と共に、俺は足元においてあったボルヴィックのペットボトルを手に取った。<br />
　ライブハウスの隅にいた洋輔と目が合う。と、洋輔がグラスを掲げて見せた。――驚いたことに左手で。<br />
　握力、戻ってきてるのか。<br />
　左手に持っていたグラスは、遠めに見ても少し震えていたが、誇らしげに掲げられていた。<br />
　それに合わせて俺もボルヴィックを掲げてみせる。<br />
「乾杯」<br />
　声に出して言った。<br />
</span>]]>

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<title>CAPACITY OVER</title>
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<modified>2007-12-17T15:33:11Z</modified>
<issued>2007-07-14T15:05:09Z</issued>
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<created>2007-07-14T15:05:09Z</created>
<summary type="text/plain"> 廃墟の中に　立ちすくむ冷たい鉄塔 風に揺れる途切れたロープ あんなものにでもぶら下がってみたら こんな痛みなんて　忘れられるのだろうか 巨大な交差点　向かってくる人たちはみんな それぞれあさってのなにかを見てた 孤独を知って　立ちすくみそうになる 俯いてロボットのように　足を動かした 灰色の空は落ちてこない 終わらない夜の中で 終わらない雨に濡れて いつも差し伸べられている手も　僕は握れない 想...</summary>
<author>
<name>千歳</name>
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<email>ckotoba@ckotoba.com</email>
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<dc:subject>120_歌詞</dc:subject>
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<![CDATA[<span style="font-family:'ＭＳ Ｐ明朝','平成明朝',serif;">
廃墟の中に　立ちすくむ冷たい鉄塔<br />
風に揺れる途切れたロープ<br />
あんなものにでもぶら下がってみたら<br />
こんな痛みなんて　忘れられるのだろうか<br />
<br />
巨大な交差点　向かってくる人たちはみんな<br />
それぞれあさってのなにかを見てた<br />
孤独を知って　立ちすくみそうになる<br />
俯いてロボットのように　足を動かした<br />
灰色の空は落ちてこない<br />
<br />
終わらない夜の中で<br />
終わらない雨に濡れて<br />
いつも差し伸べられている手も　僕は握れない<br />
想いに気づかれるのが怖くて<br />
<br />
逃げ出した僕を　相変わらず<br />
僕のとは違う愛を込め　見守ってくれている<br />
そんな目で見られたくないから　逃げ出したのに<br />
<br />
歌を歌って　誰かと体だけ繋げて<br />
キャパシティの足りないハートは<br />
一時の喜びさえもすぐになくす<br />
だからまた歌って　別の体を求めた<br />
<br />
時の止まった場所　歌いながら出会った君は<br />
こんなにもなにも持たない僕から<br />
いったい何を　見つけてくれたんだろう<br />
愛せないと言った僕を　それでもどうして<br />
そんなにまっすぐ見てくれるの<br />
<br />
終わらない夜を越えて<br />
終わらない雨を越えて<br />
君が差し伸べてくれた手を　僕はそっと握る<br />
キャパシティの足りないハートに<br />
精一杯愛を　詰め込んで<br />
そしてやっぱりこぼれていく愛を　絶望と共に捨てていく<br />
かけがえないものと　知っているのに<br />
<br />
終わらない夜を越えて<br />
終わらない雨を越えて<br />
君が差し伸べてくれた手を　そっと握り締める<br />
またこぼれ落ちるのを知りながら<br />
<br />
それでも精一杯　握り締めたんだ<br />
</span>]]>

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<title>冷たい手</title>
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<modified>2007-12-17T15:32:07Z</modified>
<issued>2007-07-10T13:14:16Z</issued>
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<created>2007-07-10T13:14:16Z</created>
<summary type="text/plain"> happy days of my dream 僕がいて　あなたがいる　二人きりの世界 いつかその夢が かなえばいいと思って どうしてもそればかり願っていたけど 今はもうあなたは　別の幸せを手にした 冷たすぎていや そんなわがままをいうこの子のために、 僕は缶コーヒーを　この手でつつんで暖めた そうして少しだけぬるくなったコーヒーに 君は口付ける 僕は冷たくなった手をポケットで暖めながら 二人並ん...</summary>
<author>
<name>千歳</name>
<url>http://www.ckotoba.com/</url>
<email>ckotoba@ckotoba.com</email>
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<dc:subject>120_歌詞</dc:subject>
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<![CDATA[<span style="font-family:'ＭＳ Ｐ明朝','平成明朝',serif;">
happy days of my dream<br />
僕がいて　あなたがいる　二人きりの世界<br />
いつかその夢が<br />
かなえばいいと思って<br />
どうしてもそればかり願っていたけど<br />
今はもうあなたは　別の幸せを手にした<br />
<br />
冷たすぎていや<br />
そんなわがままをいうこの子のために、<br />
僕は缶コーヒーを　この手でつつんで暖めた<br />
そうして少しだけぬるくなったコーヒーに<br />
君は口付ける<br />
僕は冷たくなった手をポケットで暖めながら<br />
二人並んで歩くんだ<br />
僕の冷たい心が　手から伝わらないように<br />
<br />
happy days of my dream<br />
僕がいて　あなたがいる　二人きりの世界<br />
今はもう遠い<br />
手に入れられないものを<br />
どうしても自分のものにしようとするなら<br />
あなたの幸せを　全てぶっ壊すしかない<br />
<br />
さよならも言う気はないけど<br />
それはきっと永遠の別離<br />
全てを壊してまで　手に入れようとは思わない<br />
あなたを不幸にすることだから<br />
<br />
熱くて持てない<br />
そんなわがままをいうこの子のために、<br />
僕は缶コーヒーが　冷めるまで持っていてあげた<br />
そうして少しだけぬるくなったコーヒーに<br />
君は口付ける<br />
僕は君の空いたほうの手を握りながら<br />
二人並んで歩くんだ<br />
君の手のぬくもりに　少しだけ救われながら<br />
<br />
happy days of my dream<br />
僕がいて　あなたがいる　二人きりの世界<br />
今はもう遠い<br />
手に入れられないものと<br />
もう諦めたけれど　それでもこの気持ちを<br />
なくすことができない　どうしてもなくせないんだ<br />
</span>
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<title>SEX ＆ LIVE. - noise Vol.03 -</title>
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<modified>2008-02-07T14:06:46Z</modified>
<issued>2007-06-30T17:36:01Z</issued>
<id>tag:www.cnovels.com,2007://2.18509</id>
<created>2007-06-30T17:36:01Z</created>
<summary type="text/plain"> 「彼と別れたの」 　ラブホテル。僕の胸板やら腕やらに唇を押し付けて遊んでいたアヤが突然そんなことを言った。 「そうなんだあ」 　そろそろタバコが吸いたくなって、もぞもぞし始めていた僕は、彼女の目を見る。 「その割には落ち込んでないね」 　アヤが前の彼氏、じゃもうないか。前の前の彼氏と別れたばかりの時のことを思い出す。あの時は、確か十日間くらいは落ち込んでた。 「うん、新しい彼が、その後なぐさめて...</summary>
<author>
<name>千歳</name>
<url>http://www.ckotoba.com/</url>
<email>ckotoba@ckotoba.com</email>
</author>
<dc:subject>070_noise</dc:subject>
<content type="text/html" mode="escaped" xml:lang="en" xml:base="http://www.cnovels.com/">
<![CDATA[<span style="font-family:'ＭＳ Ｐ明朝','平成明朝',serif;">
「彼と別れたの」<br />
　ラブホテル。僕の胸板やら腕やらに唇を押し付けて遊んでいたアヤが突然そんなことを言った。<br />
「そうなんだあ」<br />
　そろそろタバコが吸いたくなって、もぞもぞし始めていた僕は、彼女の目を見る。<br />
「その割には落ち込んでないね」<br />
　アヤが前の彼氏、じゃもうないか。前の前の彼氏と別れたばかりの時のことを思い出す。あの時は、確か十日間くらいは落ち込んでた。<br />
「うん、新しい彼が、その後なぐさめてくれたから」<br />
　まさか僕のことじゃないよな？<br />
　そう思って警戒してたらアヤは笑った。シン君のことじゃないよ。シン君彼氏にしたら、アヤ、嫉妬しすぎて死んじゃうもの。<br />
「なんだあ、ちょっと残念だな」<br />
　ガリ。安心して軽口を叩く僕の腕を、アヤが強めに噛んできた。「いたっ」ちょっと、それ強くかみ過ぎだから！<br />
「ねえ。今日、すごーくよかったよ？」<br />
　頬をすり寄せながら言うアヤがとてもかわいくて、僕は彼女の頭を、自由なほうの手を回して撫でてやる。<br />
「へえ、それはライブが？　それとも……」<br />
　言いながらアヤの唇をすくい取るように舐める。彼女の舌がすぐに出てきて、僕の舌に絡まった。<br />
「ふふふ。さあ、どっちでしょ――あん、もう、ダメッ」<br />
　そのままエスカレートし始めた僕の右手を優しくつかまえて、アヤは叱るような目で僕を見た。<br />
「ダメよ。終電間に合わなくなっちゃう。今日はこれから彼のうちに行くんだから」<br />
　なにい！　それを聞いて僕のテンションは一気に下がった。<br />
「ええ、僕としたばっかりなのに、これからまたそいつとするつもりなの！？」<br />
「だって、付き合い始めたばかりだし♪」<br />
　そういって、僕を押しのけて、アヤはベッドから降りた。バスルームのドアを開けながら振り返って首をかしげる。<br />
「アヤ、今すごく求められてるのよ？　だからシン君のことばかり相手してあげられないの。ごめんね？」<br />
　ドアの閉まる音と、まもなく始まったシャワーの音。そんなのを聞きながら、僕は両膝を抱え込むような格好でベッドに座り込んだ。<br />
　しょんぼりした気持ちとは裏腹に、まだまだ元気いっぱいな僕の相棒に「今日はもう終わりだってさ」と言ってやる。相棒をしまうためにパンツを探して目を泳がせた。<br />
　見っけた。よりにもよってパンツはギターケースに引っかかってブラブラしてた。そういえば最中に、勢いよく投げ捨てたんだっけ。<br />
　僕は思わず吹き出してしまう。ライブで張り切って歌いすぎたせいで少しかすれた笑い声が、ラブホテルの閉ざされた空間の中で、意外なくらいきれいに響いた。<br />
　セックスとライブ。そんな僕の一日を、このパンツとギターはユーモアたっぷりに象徴してくれてた。写真をとっておこうと思って携帯電話を探す。あったあった。パシャリ。<br />
　GUITAR & PANTS.　今度そんな歌を書こうかな♪　なんて考えながら僕はパンツに手を伸ばした。<br />
<br />
　次の日、昼前まで寝てたら携帯電話の着信音に起こされた。<br />
　ハルトだ。ハルトは一緒にやってるバンドのメンバーで、サイドギターを担当している。彼の性格をそのまま映し出してるみたいな、とても純粋な音を出すやつなんだ。<br />
　そんなハルトの電話に、けどこのときばかりは正直出たくなかった。だからって嫌なことを先延ばしにしても、あんまりいいことはない。僕はあきらめて電話に出ることにした。<br />
「……はいはい」<br />
　案の定、ハルトは怒っていた。昨日のライブのあと、清算にも打ち上げにも付き合わずにさっさとアヤと消えてしまったことがその理由だ。<br />
　たまにだったら大目に見てもらえるんだけど、最近続いてたからなあ。<br />
「ごめんなさい。次はちゃんと参加するので許してください」<br />
　一通りハルトの言葉に耳を傾けた後、俺は素直にそう謝った。<br />
　実際問題ハルトの言うことになんの間違いもない。ライブの後の清算も大事なことだし、打ち上げだってせっかくライブに来てくれた人たちと交流を深めるための大事なイベントだった。<br />
　リードギターでメインボーカルの僕が打ち上げにに毎回参加しないじゃ、来てくれた人たちのテンションも下がっちゃうよね。<br />
　ほとんど涙を流さんばかりに謝っていたら、ハルトはしょうがないなというように携帯電話の向こう側の世界でため息をつき、僕のことを許してくれた。ハルトは厳しいことも言うけれど、優しいから好きだ。<br />
「ありがとね、ユウ君♪」<br />
　思わず調子に乗って、ハルトの特別なあだ名を口走ってしまい、すぐに後悔する。<br />
「ごめんなさい！」<br />
　すぐに謝ったら、ハルトは電話の奥で笑った。気にするなよ。そう言って優しいハルトはまた僕のことを許してくれる。<br />
　ハルトは、最近とても大好きな女の子に振られてしまったのだ。<br />
　リリっていうその女の子は、ハルトのことをユウ君と呼んだ。ハルトの苗字が結城（ユウキ）だからユウ君。ハルトのことをユウ君と呼ぶのはリリだけだったので、僕らはたまにハルトのことをユウ君と呼んでからかっていた。<br />
　けど、それもハルトがリリに振られるまでの話だ。リリに振られてから、ハルトはなにもできなくなるくらいくらい落ち込んでいたから、さすがの僕らも、そんなハルトのことをとてもからかう気にはなれなかった。<br />
　そんな時にうっかり出てしまった軽口だった。けれどそれでもハルトは、僕の失言を優しく許してくれる。そんなハルトのことをやっぱり好きだと思った。<br />
　ハルトは自分のことでは滅多に怒らない。怒るのはいつも、人に迷惑をかけたりしたときだけだ。たとえばライブの後の打ち上げをサボって、来てくれた人たちをかっがりさせること。バンドの練習に遅刻してメンバーの時間を浪費させること。女の子を傷つけること。そんなことに、ハルトは怒るやつだった。<br />
　リリって女はダメだな。決してハルトの前で口には出さないけど、僕はそう思う。<br />
　僕はリリのことが許せなかった。リリ自身が傷ついているときに、さんざんハルトに甘えておいて、最後にはハルトを捨てて元彼のところに戻ったリリのことが、僕は許せなかった。<br />
（リリ、お前の選んだ男はどうしようもないやつだぞ）<br />
（いろんな女をあちこちで泣かして歩いているやつだぞ）<br />
（こんなにいいやつなユウ君が、せっかくお前のことを好きでいてくれていたのに、よりによってあんなカスを選ぶなんて）<br />
（やっぱりお前は最低な女だよ）<br />
　そんなことを心の中でだけ思いながら、僕はハルトに声をかける。<br />
「なあハルト」<br />
「ん？」<br />
　昨日ライブに来てくれてた、女の子いただろ？　ええとオキの後輩の――。<br />
「栞ちゃんのこと？」<br />
「そうそうシオリちゃん。その子さ、たぶんお前にちょっと気があるぜ」<br />
「……突然なに言い出すんだよ」<br />
「ん、この情報はほんのお詫びのシルシだから。とっておいてね」<br />
　本当は、俺が仲良くなろうかなって思ってたんだけど、お前にゆずるよ。<br />
　だから早く元気になってね、ハルト。<br />
「そんなことより、シン。伝えなきゃいけないことがあるんだ」<br />
「え、なに？」<br />
　次のハルトの言葉に、僕の世界を包んでいたオブラートが、いとも簡単に剥がれ落ちた。<br />
「優里さんが帰ってきてるよ」<br />
「…………」<br />
　なにも言わない僕に、ハルトは続けた。<br />
「さっきメールが来たんだ。帰ってきてるからシンに伝えて欲しいって。今、家にいるってさ」<br />
　その言葉を最後まで聞くこともなく、僕は家を飛び出していた。<br />
　と、パンツ一枚でいたことに気がついて、すぐまた部屋に戻る。<br />
　慌ててデニムを履きながら、僕の頭の中は優里でいっぱいになってしまっていた。優里、ゆり、ユリ。<br />
　この電話の直後に、ハルトは僕にメールを送ってくれていた。けれどそれに気がついたのは、これから二時間も経った頃だった。<br />
『今日の練習には来なくていいから』<br />
　メールにはそう書かれていて、読んで、僕はまたハルトに感謝した。<br />
　セックスとライブ。どっちも僕は大好きだけれど。<br />
　優里にはかなわない。<br />
<br />
　閑静な住宅街の普通の一軒家。特別な人がいるのでもない限り、絶対に目に留まることなんてない、そんな普通の家。<br />
　だけどここには今、優里が帰ってきているらしい。<br />
　それだけで、僕の指は震えてしまう。震える指を必死で制御し、どうにかインターホンを押した。<br />
「はい」<br />
　機械に劣化させられた声。だけどそれでも優里の声は、これでもかと僕をドキドキさせる。<br />
「真太郎です」<br />
　ブツリ。<br />
　インターフォンが切れた。無音になってきっかり10秒後、家の扉が開いて優里が出てきた。<br />
「真太郎」<br />
　優里が言った。<br />
「魔法のインターホンだ」<br />
　僕は思わず口走っていた。<br />
「え？」<br />
「押すだけで、優里が目の前に現れた」<br />
「あははは！」<br />
　僕よりも通る、透き通った声。<br />
　優里は僕を門まで迎えに来て、そしてそっと抱きしめてくれた。<br />
　僕は言った。<br />
「おかえり」<br />
「ただいま」<br />
　泣いている僕の顔を見て、優里はバカねと優しく笑ってくれる。<br />
　バカなことあるもんか。<br />
　優里と三年ぶりに再会して、そして今、彼女は僕だけを見てくれているのに。<br />
　泣く理由に、他に何がいるだろう。<br />
「おかえり、優里――姉さん」<br />
<br />
「今日は泊まっていくんでしょ？」<br />
　そんなわけで、僕は優里と再会するために、久しぶりに実家に帰ってきていた。<br />
　優里と、父さんと母さんと、僕にあまりなついてくれない猫との、本当に久しぶりの一家団らんというやつだ。<br />
　晩御飯を食べながら、優里は僕に聞いてくる。<br />
「久しぶりに家族がみんな揃ったんだから、こんな日くらい泊まっていくわよね？　ていうかここ、あんたのうちなんだし」<br />
「うん」<br />
　僕は優里の言葉に逆らえず、素直に頷いてしまう。<br />
「それと後で、今持ってる携帯電話の番号とメアドも教えること。ハルト君とすぐに連絡取れたから良かったけど――家族にも知らせないで携帯変えるなんてなに考えてんだか」<br />
「うん、わかった……そういえば旦那さんは？」<br />
「旦那は帰国してないよ。私だけ帰ってきたの」<br />
「え、じゃあ出戻りってやつ？」<br />
「あ、今嬉しそうな顔した。姉の不幸を想像して喜ぶなんて趣味悪いよ」<br />
　続けて出戻りじゃないよと優里は言った。日本には少しの間帰ってきているだけらしい。<br />
　なんだ。僕は内心がっかりしながら、久しぶりの母さんの手料理を口に運んだ。あ、それ私が作ったのよ。芋の煮っ転がしを指差して優里がそう言う。おかげで今日は芋の煮っ転がしを一年分は食べてしまった。<br />
　ご飯を食べ終わるとリビングに移動した。苦手なアルコールを付き合い程度に少しだけ飲みながら、優里の向こうでの暮らしを聞く。優里が話している間、僕はその声をひとつも聞き漏らしたくなくて一生懸命耳をそばだてた。<br />
「真太郎、今ハルトたちとバンドやってるんだって？」<br />
　優里の話がひと段落ついたら、彼女は僕にそう聞いてきた。優里は昔から、僕のことをフルネームで「真太郎」と呼ぶ。<br />
　僕は僕でそれに対抗するように、三つ離れた姉のことをたいてい「優里」と呼んだ。姉さんとはたまにしか呼ばない。<br />
　優里が僕の実の姉であることを、強く意識しないといけないとき。そんなときにしか、僕は優里のことを姉さんとは呼ばなかった。<br />
「次のライブはいつあるの？」<br />
「ええと、二十二日かな」<br />
「そうなんだ。じゃあ行ってみようかな――はい」<br />
「なに？」<br />
「チケットよ。どうせ余ってるんでしょ？　買ってあげるからちょうだい」<br />
「こ、こなくていいよ！」<br />
「なによ。あーあ、本当男の子って、こういうので家族がくるのをいやがるよねえ。お姉ちゃん寂しいわ」<br />
　そんな話をしていたら、あっという間に深夜になった。<br />
　父さんと母さんはもう先に寝てしまっている。猫もソファーで体を伸ばしきってスヤスヤしてた。今この家で起きているのは、僕と優里だけだった。<br />
　まるで世界でただ二人、僕と優里だけになってしまったみたいだ。<br />
　僕の心臓は次第に高鳴っていく。たぶんそれは、飲み慣れないアルコールのせいだけじゃなく。<br />
「……今日はちょっと飲みすぎちゃったかな。ま、いいか。家だしね」<br />
　お酒を飲んで、頬が赤くなっている優里が、そう言いながら缶ビールを頬にあてる。クスクス笑う優里が、僕にはとてもなんというか、そう、なまめかしく映った。<br />
　僕はソファーから立ち上がった。<br />
「ん、どうしたの？」<br />
　お酒にぼうっとした目を、優里は僕に向けてくる。<br />
「ちょっと外の空気吸ってくるよ」<br />
「はーい」<br />
　言いながら優里はソファーに寝転がる。このまま寝ちゃうんじゃないかな。そう期待しながら外に出た。<br />
　家ではガマンしていたタバコに火をつける。<br />
　フウ。煙を吐き出すと、ようやく気分が落ち着いた気がした。<br />
　三年前、この家で家族で暮らしていた頃は、僕はおとなしい十八歳の男の子だった。<br />
　タバコも吸ってなかったし、お酒も飲まなかった。自己主張とか全然しなくて、自分から人に話しかけることさえほとんどない、うーんとおとなしくて目立たない男の子だったんだ。<br />
　バンドとか、ライブとか、あの頃の僕しか知らない人は、今の僕がそんなことしてるなんて想像できないだろうな。<br />
　もうあの頃とは、僕はずいぶん変わってしまったんだ。けど今の僕を家族に見せるつもりはまったくなかった。<br />
　うちの親たちはぜったい戸惑うと思うし、優里はきっと――うーん、けど、優里がどんな反応するかは全然わからないや。<br />
　タバコを吸いながら、駅に向かって歩き出す。<br />
　うん、実はもう、今日はこのまま実家に戻るつもりはなかったんだ。<br />
<br />
　電車の中で、昨日僕をおいて彼氏のもとに行っちゃったアヤに、メールを打った。<br />
『急にアヤに会いたくなっちゃったよ。これから会えないかな？』<br />
　少しして返事がくる。<br />
『ダメだよ。今日は彼と一緒にいるから』<br />
　また彼か。僕はうんざりして、それでもしつこくメールを送る。<br />
『なんとかなんない？　アヤに会いたいんだよ』<br />
　本当に、今日はどうしてもアヤに会いたかったんだ。<br />
『……どうしてそんなに会いたいの？』<br />
『もちろん好きだから』<br />
『好きだけど、愛せない。でしょ？』<br />
『うん。それじゃダメ？』<br />
『いいよ。けど今日は会わない。今日はアヤのことだけ見てくれている人と一緒にいたいの』<br />
　携帯電話を電車の中で握りなおした。<br />
「アヤのことだけ、か……」<br />
　声に出してつぶやく。<br />
　昔、アヤにとても真剣に告白された。<br />
　そのときにはもう何度か体の関係があって、相性もすごく良くて、それにアヤは一緒にいて楽しい女の子だった。<br />
　そんなアヤに好きだと言われて、僕はとても嬉しかった。アヤのことを大事にしたいなと思った。<br />
　だから正直に言ったんだ。<br />
<br />
（僕もアヤのことが好きだよ）<br />
（うん、けれど一番、じゃないんだ）<br />
（アヤのことは好きだけど、一番好きな人がほかにいるんだ）<br />
（違うよ。好きだよ。けど――たぶん愛せない）<br />
<br />
　僕の言うことに泣いてしまったアヤは、それからしばらく僕の前に姿をあらわさなかった。<br />
　そして月日が流れて、次に会ったとき、アヤは僕に言ったんだ。<br />
<br />
（アヤね。彼ができたの）<br />
（アヤのこと、すごく愛してくれてるの。だからアヤにとっても、一番大事なひとなんだ）<br />
（だからシン君は、アヤの二番目に大事なひとだよ。ね、これでおんなじでしょ？）<br />
　そう言って、アヤは僕にキスをした。とても情熱的な、二番目どうしのキス。<br />
<br />
　僕とアヤの関係は、どこかゆがんでる。<br />
　二人が時々寄り添っていられるように、寂しがりやなアヤが見出した、それはたぶんギリギリの折り合いのつけ方なんだと思う。<br />
　そして僕は、そのままなにもせず、ただアヤに甘えて過ごしている。<br />
　僕はずるい男だった。<br />
　本当は僕は、ハルトを振って元彼のところに走ったリリのことを、最低だなんていう資格はなかったんだ。<br />
　大好きなひとのことを忘れようとして、ハルトの気持ちを利用したリリ。<br />
　大好きなひとのことを忘れられないまま、ただ寂しくてアヤを求める自分。<br />
　本当に最低なのはリリじゃなく、僕のほうだと思う。<br />
「ごめんね、アヤ」<br />
　けれど僕は。<br />
<br />
　そして一週間後の二十二日。下北沢で僕たちのライブが行われた。<br />
　出来は……一言でいうとめちゃくちゃだったかな。<br />
　今日はアヤがライブに来てくれてた。<br />
　あの夜にメールで会うのを断られて以来、なんとなく連絡してなかったので、アヤがきてくれたのは結構嬉しかった。<br />
　僕がアヤを見たことに、彼女は敏感に気づいたらしい。目が合った瞬間、アヤは僕に向かってアッカンベーをした。驚いた僕はギターの弦を押さえそこなって、ちょっと演奏が乱れてしまう。<br />
　それでもすぐに演奏を立て直して、フィニッシュ。お客さんから拍手をもらって、ベースのオキにＭＣをまかせながらチューニング。その間に気持ちを切り替える。<br />
　次は最後の曲だ。１・２・・僕はギターを思いっきりかき鳴らした。<br />
　短いギターソロの後、一気に他の楽器のパートが入る。僕は声を張り上げようと熱い空気を吸い込んだ。<br />
　そのとき奥の防音扉が開いた。<br />
　いつもなら演奏中だろうと気にもしないようなことなのに、なぜか僕の目はその扉に釘付けになった。そして中に入ってきたのは、なんと優里だった！<br />
「優里！」<br />
　歌が入るまさにそのタイミングで、思わず僕はそう叫んじゃった。ピックが滑って手から落ちる。<br />
「ええ！？」<br />
　普段物静かなハルトがそんな声を上げた。それくらい思いがけない出来事だったらしい。そりゃそうだよな。ボーカルが、歌うタイミングで姉の名前を叫ぶなんて、予想できるわけない。<br />
　そんなわけで、あまりの僕の突然のアクションに演奏は完全に止まってしまった。なにごとかと唖然とするお客さんたち。ライブハウスの中は一瞬、完全な静寂に包まれた。<br />
<br />
　ね、めちゃくちゃだろう？<br />
<br />
　そんな散々なことがあったライブだけど、どういうわけかあの派手なハプニングが、かえってお客さんたちの気を引いたらしかった。<br />
「気にするな！」<br />
「がんばって！」<br />
　と、思いがけず暖かい声援をもらった僕たちは、なんかもう開き直ったみたいな気分になっちゃった。<br />
　メンバー同士で一瞬視線を合わせる。リクがドラムスティックでカウントをとり始めた。１・２・・<br />
　リードギターの音。そしてすぐにサイドギターとベースとドラムが入る。音の奔流の中、僕はギターから目を離して顔を上げた。<br />
　けしからんことに、アヤが心底おかしそうにケラケラ笑っていた。<br />
　さっき突然名前を叫ばれた優里は、わけがわからないみたいなポカンとした顔をしている。<br />
　アハハ！　そんな二人が面白くて、心の中だけで笑う。<br />
　そしてほとんど反射的に音に満たされた空気を吸い込み、五つ目の音――僕の声を張り上げた。<br />
<br />
『子供の頃に　なりたかったもの<br />
　特になかったけど　しいていうなら風がよかった』<br />
<br />
　これ以上ないタイミングで声を出すことができて、一人鳥肌をたてる。<br />
<br />
『風はあんなに軽くて<br />
　山のてっぺんまでも　軽々と飛び越えていくのに<br />
　俺の体は　こんなにも重く<br />
　学校の　塀も飛び越えられない』<br />
<br />
　やばい、楽しい！<br />
　けどちょっと走り気味かも。<br />
　もう少し、気持ちを落ち着けたほうがいいのかな。<br />
<br />
『風のようになりたいと<br />
　どんな大変なことも　軽々と超えていけるような<br />
　そんなやつになりたいと　何度思っただろう』<br />
<br />
　だんだん自分の声と、手に持つギターに意識が集中していくのがわかる。仲間の音が、鼓膜を貫き通すみたいに脳に直接響いてくる。<br />
<br />
『そう男の子がみんな　ヒーローに憧れたように<br />
　俺はきっと　風に憧れていたんだ』<br />
<br />
　風に憧れていた。これはハルトの作った歌だ。<br />
　ハルトらしい、とてもひたむきな、まっすぐ前を向いた歌。<br />
<br />
『けどいつからか　なくした気持ちなんだ<br />
　確かにガキだった　俺があの頃言ってたとおりで』<br />
<br />
　僕はこんなふうには生きられない。<br />
　自分の一番大切なはずな気持ちに向き合うこともできず、ただ、その気持ちから逃げることだけを考えている。<br />
<br />
『風はあんなに軽くて<br />
　ビルの屋上までも軽々と飛び越えていくのに<br />
　俺の体は　ますます重くて<br />
　駐車場の　塀も飛び越えられない』<br />
<br />
　優里から逃げるように家を出て、たくさんの女の子と付き合って、ヒマだしかっこいいからという理由で音楽を始めた。<br />
<br />
『けど風のようになりたいと<br />
　どんな大変なことも　軽々と超えていけるような<br />
　そんなやつになりたいと　今はもう思わない』<br />
<br />
　ライブをするようになって、最高だと思った。<br />
　アヤに会って、大事にしたいと思った。<br />
<br />
　けど、それでも優里への思いが、消えることは全然なくて。<br />
<br />
『重たいのは　生きているという証<br />
　これは命の重さ』<br />
<br />
　今では大好きになった音楽や、アヤさえも。<br />
　まるで優里から逃れるための道具のように、僕は使って。<br />
<br />
『風のように　軽々とでなくていい<br />
　飛べなくてかまわない<br />
　この命と　向き合って生きていく<br />
　そう決めたんだ　だから』<br />
<br />
　もうわかっている。<br />
　この歌のようにまっすぐには、僕は生きられない。<br />
<br />
　絶望の涙が流れる中、僕は歌った。<br />
　最後のフレーズを。思い切り。心を込めて。<br />
<br />
『――俺は風のようでなくていいんだ』<br />
<br />
　ワアッ！<br />
<br />
　演奏が終わって、歓声を浴びて。<br />
<br />
　快感にも似た歓喜が体中を駆け巡る。この瞬間、優里への思いからも完全に開放されて、僕は最高にハイになっていた。<br />
　けど、あともう少しすればまたあの狂おしい、決してとげられない思いが僕を絶望させることになる。<br />
<br />
　SEX ＆ LIVE.<br />
<br />
　とてもよこしまな気持ちで、僕はこれからもその二つを求めるんだろう。<br />
　愛してる。そんな、自分の中の一番ピュアなはずの思いが、結局他の何もかもを狂わせていく。<br />
<br />
　けどいいや。今こうしていて、僕はとてもハッピーだから。<br />
　体を満たす甘い痺れに、今はただ身をゆだねて。<br />
　SEX ＆ LIVE.　絶望を忘れさせてくれる、僕の最高のドラッグ。<br />
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</span>
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<title>ありがとう</title>
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<modified>2007-12-17T15:30:51Z</modified>
<issued>2007-06-15T16:02:06Z</issued>
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<created>2007-06-15T16:02:06Z</created>
<summary type="text/plain"> 　ありがとう　君にあえたから 　僕は今また　新しい自分に向き合えた 　理由さえもわからない苛立ちに 　意味なく傷つけたり　傷つけられたり 　他の人に言われても 　なにも感じないはずの言葉が 　こんなにも痛みをともなうのは 　君が大事な人だったから 　ありがとう　壊れた心も 　きっといつかは　新しい世界に向き合えて 　もう僕らはきっと会うこともなく 　はじめからこの出会いは　なかったように 　違う...</summary>
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<name>千歳</name>
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<email>ckotoba@ckotoba.com</email>
</author>
<dc:subject>120_歌詞</dc:subject>
<content type="text/html" mode="escaped" xml:lang="en" xml:base="http://www.cnovels.com/">
<![CDATA[<span style="font-family:'ＭＳ Ｐ明朝','平成明朝',serif;">
　ありがとう　君にあえたから<br />
　僕は今また　新しい自分に向き合えた<br />
<br />
　理由さえもわからない苛立ちに<br />
　意味なく傷つけたり　傷つけられたり<br />
　他の人に言われても<br />
　なにも感じないはずの言葉が<br />
　こんなにも痛みをともなうのは<br />
　君が大事な人だったから<br />
<br />
　ありがとう　壊れた心も<br />
　きっといつかは　新しい世界に向き合えて<br />
<br />
　もう僕らはきっと会うこともなく<br />
　はじめからこの出会いは　なかったように<br />
　違う道を歩むけど<br />
　いつか見た　あの時の景色は<br />
　僕の一つ一つの細胞に<br />
　きっとなにかを残している<br />
<br />
　ありがとう　君にあえたから<br />
　僕は今また　新しい自分に向き合えた<br />
　ありがとう　壊れた心も<br />
　きっといつかは　新しい世界に向き合えて<br />
　ありがとう　こんな言葉さえ<br />
　もうあなたには　届かないけれど　ありがとう<br />
</span>]]>

</content>
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<title>もしも彼女が</title>
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<modified>2008-02-24T14:13:30Z</modified>
<issued>2007-06-08T14:14:59Z</issued>
<id>tag:www.cnovels.com,2007://2.18503</id>
<created>2007-06-08T14:14:59Z</created>
<summary type="text/plain"> 「ねえ。朝起きて、もしもあたしが猫になっていたら、あなたどうする？」 「…………」 　またか。俺はその質問に正直うんざりしていた。 　彼女が初めて俺に聞いてきた架空の話はどんなんだっけ――そうだ。「もしもあたしが人殺しだったら、あなたどうする？」確かこいつは俺にそう聞いてきたんだった。 　そのときは「自首するように勧める」とかなんとか言ったら、どうやらそれは彼女の意に染まない返答だったらしい。か...</summary>
<author>
<name>千歳</name>
<url>http://www.ckotoba.com/</url>
<email>ckotoba@ckotoba.com</email>
</author>
<dc:subject>080_恋愛小説</dc:subject>
<content type="text/html" mode="escaped" xml:lang="en" xml:base="http://www.cnovels.com/">
<![CDATA[<span style="font-family:'ＭＳ Ｐ明朝','平成明朝',serif;">
「ねえ。朝起きて、もしもあたしが猫になっていたら、あなたどうする？」<br>
「…………」<br />
　またか。俺はその質問に正直うんざりしていた。<br>
<br>
　彼女が初めて俺に聞いてきた架空の話はどんなんだっけ――そうだ。「もしもあたしが人殺しだったら、あなたどうする？」確かこいつは俺にそう聞いてきたんだった。<br>
　そのときは「自首するように勧める」とかなんとか言ったら、どうやらそれは彼女の意に染まない返答だったらしい。かなり機嫌が悪くなった。<br>
<br>
　その後も、魚だったらどうする？　木だったら、ゴミだったら、と、彼女は様々な架空の話をして俺に聞いてくる。<br />
　いったいどういう意図があって、彼女は俺にそんなことを毎回聞いてくるのか。そもそもそれが俺にはわからない。最初はなにか不安なことでもあるのかとも思っていたけど、どうやらそれだけでもないようだった。<br>
　最初のうちはそれでも（俺からすれば）辛抱強く聞いて、考えて、彼女の喜びそうな答えをなんとか言おうとした。<br>
　しかしどうやら俺は彼女にとっては模範的な回答者とは言いがたいらしく、彼女が俺の答えに満足した顔をしているのをほとんど見たことはない。<br>
<br>
　そして彼女の質問に戸惑いっぱなしのまま、俺はだんだんその質問自体を鬱陶しく感じるようになってしまう。<br>
「今忙しいんだ」<br>
　そんなことを言って、質問自体から逃げるようになっていった。<br>
　もちろんそんな俺の態度に、彼女はあからさまに不機嫌な顔をする。<br>
　しかし言わせてもらえば俺だってそんなわけのわからない質問をされて少なからず不愉快なのである。<br>
<br />
　そして今夜、冒頭のセリフが彼女から発せられたのだ。<br />
「ねえ。朝起きて、もしもあたしが猫になっていたら、あなたどうする？」<br>
「…………」<br />
　ついに俺は言ってしまった。<br />
「知るか」<br />
　で、そっからが大変だったわけだ。<br />
　ちゃんと答えて。嫌だ。の不毛な押し問答のすえ、彼女は怒って俺の部屋を出て行ってしまった。風呂入ったばかりなのに、化粧もせずハンドバックだけ持って。<br>
<br>
　そのときはさすがに俺も焦ったが、しかしそれでも大人気なく「もう勝手にしろ！」なんて考えていた。<br />
　ガラステーブルの前にあぐらをかいたまま、飲みかけのビールを一気に飲み干す。<br>
　彼女が最近好きで聴いている音楽にさえムカツキを覚え、オーディオの電源を消して代わりにテレビをつけた。<br>
<br>
　そしてどれだけの間こうしていただろう。<br />
　やることもなく、ぼけーとテレビを眺めながら、早くも俺は後悔し始めていた。<br />
「ちょっと言い過ぎたかな？」<br />
　なんて考えて反省してみたりする。<br>
　しかし、どう考えても今度のことは自分は悪くない。その思いはどうやら俺の中で変わりそうになかった。<br>
　一人ため息をつく。<br>
　今夜は、彼女と二人で過ごす予定だった。<br />
　だから当然他に予定は入れてない。<br>
　この夜は、このまま無為な時間を過ごすことになるのか。<br>
　そう考えると、ひどく空しい気持ちが押し寄せてくる。<br>
「まあ、いいか」<br>
　空しさの後に去来したのは諦めのような気持ちだった。<br>
　あいつになにを言っても無駄だ。言葉が通じない。<br>
　そんな風にさえ思っている自分に気がつき苦笑する。<br>
　もう、今夜は彼女は帰ってこないだろう。<br>
　そう割り切って出かけることにした。<br>
　こんな夜に、一人でこの部屋にいたくなかったんだ。<br>
<br>
「それでここに来たわけね」<br>
　ジンのロック片手にグチグチ愚痴を言う俺の話をひとしきり聞いたあと、マスターは男にしては高い声でそう言った。<br>
「ああ、そうさ」<br>
　カラン。俺の手がグラスを揺らし、中の氷が音を立てる。<br>
「バカだねえ。」<br>
　ためいき交じりなマスターのそんなコメントに、俺は少し身を乗り出した。<br>
「だろう？　まったく、あいつなに考えてんのかさっぱりわかんねえよ」<br>
「私が言ってるのはあんたのことよ」<br>
「ええ？　なんでだよ」<br>
「女はね。寂しがりやな生き物なのよ」<br>
　したり顔でオカマのマスターは言う。<br>
「こんな女心がわからない男と付き合ってちゃ、あの子も不安にもなるわよね。かわいそう」<br>
「……悪かったな。女心がわからなくて」<br>
　男だって寂しがりやなんだよ。そう思ったが、それを口にする代わりに煙草に火をつけた。<br>
「特にあの子はね。いつも心のどっかに、孤独をかかえてるようなところがある子よ」<br />
「…………」<br />
　一息吸って吐き出した煙が、やけにくっきりと店の空気に線を入れた。<br />
「それはあんたもわかってるでしょう？」<br>
「……ああ」<br />
<br />
　知ってるそんなことは。<br />
　悲しいくらい。<br>
<br />
（――ねえ、どう思う？）<br />
<br />
　寂しがりやで臆病で人見知り。けれどそれを人に見せない。<br>
　だからみんなあいつのことを、社交的で明るい子だと勘違いする。<br>
　けれど、けれど本当のあいつはそれとは全く逆で。<br>
<br>
（ねえ、どこにも居場所がないって、どんな気持ちだと思う？）<br>
（ここはあたしのいる場所じゃない。そう思ってるのに、そこから離れられないの。それってどんな気持ちがするものだと思う？）<br>
<br />
　付き合って間もない頃、あいつは俺にそう聞いてきた。<br>
　じゃあ俺を、お前の居場所にすればいいだろ。俺は少しぶっきらぼうに、けれど出来るだけ優しく聞こえるように気をつけながらそう言った。<br>
　そしたらあいつ、笑ったっけ。<br>
　寂しそうにして。<br>
<br />
　いつも、心のどこかに孤独を抱えている女の子。<br />
　だけど初めて会ったときはとても明るくて、そんなことに俺は全く気づきもしなかった。<br />
　自分の気持ちを隠すのがとてもうまくて、気まぐれで。初めて体を重ねたときも、きっとあいつは俺のことを別に好きでもなんでもなかった。<br />
　ただあいつは寂しかったからそうしたんだ。<br />
<br />
　そしていまだに俺は、あいつがなにを考えているのかわからない。<br />
　これだけ一緒にいるのに。なのに俺はあいつのことを、時折どうしようもなく遠くに感じてしまう。<br />
<br />
「あんたは、あの子の居場所になりたいんでしょ」<br />
「ああ。けど、あいつは多分、俺を居場所だなんて思っちゃいない――って、なんで知ってんだそんなこと！？」<br />
「バカだねえ」<br />
　マスターはクックッと笑った。<br />
「あんたとあの子が付き合い始めたころにさ。あの子がこの店に来て、そう話してたのよ」<br />
　だからバカだって言ってんのよ。マスターはおかしそうに続ける。<br />
「あの子、とても嬉しそうに話してたわよ。あんたが、俺を居場所にすればいいって言ってくれたって、とても嬉しそうにね」<br />
<br />
　俺は席を立った。<br />
「あら、もう帰るの？」<br />
「あいつを探さないと」<br />
　探して、見つけ出して、謝ろうと思った。<br />
　それに、寂しがりやなあいつのことだ。これ以上放っておいたら、どこで何をするかわからない。<br />
「あっそう。ついでだからもうひとつ教えといてあげるわよ。女の子がそうやって絡んでくるうちは、その男にまだ気がある証拠よ」<br />
　女はね、どうでもいい男にはそんなこと聞きもしないんだから。<br />
　マスターのそのセリフを背に、俺は店を出た。<br />
<br />
　もしかして俺の部屋に戻ってきているかもしれない。<br />
　そう思って戻ってみたら、本当に彼女がいた。<br />
「どこ言ってたの？」<br />
　泣きそうな顔をして、彼女が言う。<br />
「ごめん」<br />
　俺は謝った。<br />
「もうあなたは帰ってこないんじゃないかって、あたしさっきまでそう思ってたのよ」<br />
「ごめんよ」<br />
　俺は彼女を抱きしめた。<br />
<br />
　甘やかな時間の後、彼女が俺に言った。<br />
「で、どうするの？」<br />
　なんのことかわからず、間の抜けた声で俺は問い返す。なにを？<br />
「だから、あたしがもしも猫になったら。そしたらあなたはどうするの？」<br />
　まだその質問は生きてたのか！<br />
　突然の難題に、俺は数秒間パニクった。<br />
　そして恐る恐る答えた。<br />
「じ、じゃあ俺も猫になるよ」<br />
「……意味わかんないんだけど」<br />
　思わずなにか言い返そうとして、思い直し、別のことを聞いた。<br />
「今日はどんな一日だった？」<br />
　機嫌が悪そうな目で睨まれたが、ちょうど今日起きたことで話したかったことがあったらしい。<br />
　彼女はいつの間にかその話に夢中になり、俺はひそかにほっとしながら、その話に聞き入っているフリをした。<br />
　こうやって話をしてくれるってことは、どうやら彼女は今も俺のことを必要だと思ってくれているようだ。<br />
<br />
　俺には、彼女が本当はなにを考えているかなんてさっぱりわからない。<br />
　もしかしたら彼女も同じ気持ちなのかもしれない。男と女は、本当の意味ではなかなか分かり合えないのかも知れなかった。<br />
<br />
　けれど、俺はこいつのことが好きだから。<br />
　だからこれからも、そのたびに変わる彼女のルールで伝え続けようと思った。<br />
　ただ、好きだという気持ちを。<br />
</span>
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<title>さよならの意味 - noise Vol.02 -</title>
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<modified>2008-02-07T14:00:41Z</modified>
<issued>2007-05-16T17:23:41Z</issued>
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<created>2007-05-16T17:23:41Z</created>
<summary type="text/plain"> 「じゃあね」 　シンがそう言うのに、僕は車の窓から手を出して応えた。 　駐車場から道路に出る。急な右折に、後部座席に押し込んだギターケースが揺れる音がした。 　携帯電話の着信音が鳴る。 『今から行くよ』 　そうリリに送ったメールの返信が来たんだろう。信号に捕まっている間にチェックする。やっぱりリリからだ。 『いつもの場所にいるね』 　返信にはそう書かれてあった。信号が変わるのももどかしく僕は車を...</summary>
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<name>千歳</name>
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<email>ckotoba@ckotoba.com</email>
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<dc:subject>070_noise</dc:subject>
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<![CDATA[<span style="font-family:'ＭＳ Ｐ明朝','平成明朝',serif;">
「じゃあね」<br>
　シンがそう言うのに、僕は車の窓から手を出して応えた。<br>
　駐車場から道路に出る。急な右折に、後部座席に押し込んだギターケースが揺れる音がした。<br>
　携帯電話の着信音が鳴る。<br>
『今から行くよ』<br />
　そうリリに送ったメールの返信が来たんだろう。信号に捕まっている間にチェックする。やっぱりリリからだ。<br>
『いつもの場所にいるね』<br />
　返信にはそう書かれてあった。信号が変わるのももどかしく僕は車を発進させた。バイトで貯めたお金で買った軽の中古車は、僕の気持ちとは裏腹に反応が鈍い。<br>
<br>
　リリと最後に会ってから、もうひと月になろうとしていた。<br>
　それだけの間リリに会わなかったのは、しばらくなかったことだった。リリが半年前に彼氏と別れてからは、ずっと週に2回くらいのペースで会っていたのだ。僕にとって今の状況は、ほとんど異常事態と言えるほどだった。<br>
　お互いのタイミングが合わなかったといえばそれまでなのだけれど、彼女に会おうという提案をすると、いつもリリにはなにか用事があって会えなかったのだ。だんだん避けられているような気がし始めて、僕は正直焦っていた。だから今日は会えるとわかってとても嬉しかったし、同時にいいきっかけになるかもしれないと思っていた。<br>
　僕とリリは友達だった。リリが彼氏と別れる前と比べてどれほど仲が良くなっていたとしても、肝心なところで、僕らは友達のままだった。<br>
　彼氏と別れた時に、リリの心にできた傷。その傷が癒えたら好きだと言おうと僕は決意していた。<br>
　別れたばかりの頃、リリは僕という存在を求めた。彼の思い出の品がたくさんある自分の部屋に戻りたくないと、頻繁に僕の部屋に泊まった。<br>
　何もしないでね。眠るとき決まって寂しがり、僕に抱きしめて寝て欲しいとせがむリリは、同時にいつもそう言った。リリの肩を僕は何度抱きしめただろう。同じベッドで眠りながら、狂おしさを体の奥に閉じ込めるようにして。<br>
　だから、リリがこれだけの期間僕に会わなくても平気だったのは、自分の部屋で一人きりで眠れていたのは、彼女の心の傷が癒えてきているということなのではないか。僕は会えないことを不安に思いながら、同時にそんな期待を抱いてもいたのだった。<br>
　だから僕はもう決めてしまっていた。今までの中途半端な関係には、もうさよならだ。リリに告白するのだ。今日、リリを僕のものにする！<br />
<br>
　住宅街の、緩やかな坂道。街路樹のそばにリリは立っていた。ひらひらのカーディガンが風に揺れている。<br>
「リリ、おまたせ」<br>
　助手席に乗り込んだリリにそう言う。ううんと、彼女は首を振る。<br>
「練習どうだった？」<br>
「ああ、順調だよ。次のライブ、楽しみにしてて」<br>
　リリと会う直前まで、僕はシンやオキ達と貸しスタジオでバンドの練習に励んでいたのだ。そして順調だというのは嘘だった。今日は久しぶりにリリに会えるということですっかり僕の気持ちが高ぶってしまい、ミスを連発して彼らにすっかり呆れられていたのだから。<br>
「久しぶりだね」<br>
　小さな嘘を別の言葉で覆い隠すようにそう言葉を続ける。ばれたかな。僕はそう思った。僕は我ながら、嘘をつくのが下手だ。そして彼女は嘘を見抜くのが信じられないくらい上手だった。<br>
「うそ」<br>
　案の定、彼女はおもしろそうに断定する。<br>
「ユウくんは本当嘘がつけないのね」<br>
　なんでわかるの？　僕の質問に彼女はいつも答えてくれない。だって教えてあげたら、ユウくん、嘘をつくのが上手になるかもしれないでしょ？　だから教えてあげない。のだそうだ。<br>
　久しぶりに会ったから、話すことは山ほどあった。今やっているバンドのこと。買って二ヶ月になるこの中古車の調子について。昨日、妹が彼氏を連れてきたこと。<br>
「あゆみちゃんの彼氏って年上？」<br>
「ちょうど二十歳になったところだって言ってたから、あゆみより2コ上、俺の一コ下だね。」<br />
「じゃあ私と同い年だあ。どんな感じの人だった？」<br />
「うん、なんかちょっとヤンキーぽかったかな」<br>
「ええ、そうなの？」<br>
「うん。けどいいやつだと思う。今度やるライブも見に来てくれるって言ってたし」<br>
「……それって、ライブに来てくれるからそう言ってるだけなんじゃないの？」<br>
　そんな話をしながら、僕はどこに行こうか考えていた。夜十時。食事するならファミレスかな。以前良くそうしてたみたいに、コンビニでなにか買ってうちで食べるのでもいいけれど。けれどあんまりしばらく会ってなかったから、それは少し切り出しにくい。<br>
　いや、そもそもリリはお腹がすいてるんだろうか？　どこか行きたいところはあるのかな？<br />
「私、久しぶりに海がみたいな」<br>
　僕の考えを見通すようにリリがそう言って、行き先が決まった。もしかしてリリは人の心が読めるんじゃないだろうか。少なくとも僕の心は。<br>
　海か。僕はひそかにしめしめと考えていた。告白するのに、海は絶好の場所だと思ったのだ。<br />
　僕の告白に彼女はどんな反応を示すだろう。喜んでくれるだろうか？<br />
　告白の言葉を聞いて感激の涙を流すリリ。優しく抱きしめる僕。そして二人の唇の距離はゆっくり縮まり……。フフフ。<br />
「ユウ君、どうしたの？」<br />
　気がつけばリリが怪訝そうな様子で見ていた。どうやらエスカレートした妄想のせいで、知らず知らずのうちに顔がかなりにやけてしまっていたらしい。<br />
「な、なんでもないよッ」<br />
　いけないいけない。二人っきりの車中で男がにやけながら運転するのはどう考えても良くない。気を引き締めなければ。<br />
「オーケー。じゃあ海を見に行こう！」<br />
　僕は軽快なハンドルさばきで車の進路を変更させた。片思いにさよならするのは今夜しかない。目的地は海。ミッションはリリへの告白だ！<br />
<br>
　三十分ほど車を走らせ、目的地である海辺に着いた。海の近いこの町では、行こうと思ったら海まではすぐだ。だから、本当は三十分も車を走らせなくてもよかったんだ。<br>
　だけど、この海辺から見える海を彼女が好きなことを、僕は知っていたから。<br>
　車を止めて少し歩くとコンクリートの道が砂浜に変わる。テトラポットの小山が開けて、突然目の前に海が現れた。<br>
　波音と風の音。海から吹く風は少し寒い。ああ、だからリリはカーディガンを羽織ってきたんだなとその時になって思った。今日は、初めからリリは海に来たかったんだ。<br>
「ねえ、二人で初めて海に来たときのこと、覚えてる？」<br>
　夜の砂浜をゆっくり歩きながら、リリは僕にそう聞いた。そんなこと、忘れているわけがない。その日リリは、あまりにも強烈な印象を僕に残したのだ。<br>
　冬の海。灰色の空を侵食するように、眩しい太陽が雲間から覗いている。風は穏やかだったけどとても寒い日だった。何組かのカップルが寄り添いながら海を眺めていた。犬を連れた男の人が歩いている。犬さえも、濡れた砂浜を避けるようにしていた。<br />
　そのときのことを昨日のことのように思い出しながら、僕は思わずあきれたような口調で言った。<br />
「冬なのに、君は裸足になって波打ち際を歩き出した」<br>
　僕の口調にリリは笑う。<br />
「ちょっとはしゃぎすぎちゃったね。けど、ユウ君はそれに付き合って、一緒に歩いてくれたよね」<br>
「しゃれになんないくらい冷たかったよ」<br>
　今思い出しても鳥肌が立つくらいだ。<br>
「私が転ばないように、ずっと手を握ってくれていた……」<br>
　けれどリリの手は暖かかった。<br>
「あの時、嬉しかったの。すごく」<br />
　なんとなく予感はしていたけれど、リリはミュールを脱ぐと、月明かりが反射する海の中に足を浸した。あの時のように。<br>
　慌てて僕は駆け寄る。同じように裸足になってリリの体を支えた。<br>
　ああ、あの時と同じだ。あの時は年が明けたばかりの昼下がりで、今は九月の夜だという違いはあるけれど。<br>
　リリが海の冷たさに少し震えているのも同じだった。<br>
　いや、リリの震えの意味はあの時とは違っていた。打ち寄せる波を不安そうに見ているリリを見て、彼女がおびえていることに僕は気づいた。<br>
　夜の海は、それ自体がまるで夜そのもののようだった。真っ黒な水が体を吸い込んでいきそうな錯覚にとらわれる。<br>
「きゃ」<br>
　思わず、僕はリリを抱きしめた。リリが海の水に溶けていってしまわないように。<br>
　後ろから抱きしめたリリは、ひと月前と比べて、なんだかさらに細くなったように思えた。<br />
「ユウ君、苦しいよ」<br />
　気がついたら結構な力でリリを抱きしめてしまっていた僕は、慌てて抱きしめる力を弱める。するとリリは、まだ回していた僕の腕の中で振り返った。リリを抱きしめている形で、僕たちは向き合った。<br />
「あ……」<br />
　息をついたリリが、なんだか驚いていうような眼差しで僕を見上げた。<br />
　月明かりの下。波の中で砂が舞って足をくすぐる。リリが濡れた瞳で僕を見つめている。<br />
　好きだ。とても自然にそんな気持ちが湧き上がってくる。僕はその大切な言葉を、リリに伝えようと口を開いた。<br />
「電話があったの」<br />
　けれど、先に口を開いたのはリリの方だった。<br />
「す……え？」<br />
　まさに好きだと言おうとしたその時だった。唐突過ぎるリリの言葉の意味をすぐには飲み込めず、僕は聞き返した。<br />
　リリは言った。目を、僕からは逸らして。<br />
「電話があったの……彼から」<br>
　その言葉を聞いた瞬間の僕の震えを、彼女は感じただろうか。<br>
　リリがいなくなってしまう。そう思ったのは、けれど夜の海のせいではなく。<br />
　もう一度強く抱きしめようか一瞬迷って、僕が選んだのは逆のことだった。回していた腕をゆっくりほどくと、リリは僕の腕に手を絡ませて横に立つ。引いていた波がまた静かに押し寄せて、足を冷たい感触とともに海に溶かした。<br>
「彼、私がいないとダメなんだって言うの。いまさらだと思わない？　本当いまさらだよね」<br>
「そうだね」<br />
　僕は答えた。精一杯、優しい声で。<br />
「でしょ？　本当、いまさらなのに、ね……」<br />
　別れた彼氏の、どこかで聞いたような薄っぽいセリフ。その言葉へのリリの答えを僕は疑わない。リリのことは誰よりもわかっているから。<br>
「……そうだね」<br />
　僕はもう一度同じ言葉を繰り返した。そしてさらに言葉を続けるために声を振り絞る。抑えようのない声の震えが、波の音で消されてしまえばいいと願いながら。寒さのせいだとリリが思ってくれればいいと、ただ祈りながら。<br>
「よかったね、リリ」<br>
　その言葉に、リリは少しの間だけ沈黙して、そして頷いたんだ。<br>
<br>
　それからなにをどうしたのか、記憶が定かではないけれど、気がつけば僕はリリを助手席に乗せて、リリのうちまで送っていた。<br>
　海で、そして帰りの車中で、いろんなことを話したと思う。僕は努めて明るく話した。よかったねと、何度も言った。僕も嬉しいと、目を細めながら偽りの気持ちを、偽りの顔でリリに話して聞かせた。<br>
　まるで彼と別れる前に戻ったみたいに、リリは彼のことを楽しそうに話す。僕は時折あいづちを打ちながら、静かにそれを聞く。<br>
　本当に、まるで昔に戻ったようだった。あの頃と違うことなど何一つないと、信じてしまえるほどに。<br>
　戻ろう。僕はそう思っていた。たまに会っては、また以前のように彼氏の話を聞いてあげる。そんな関係に。<br />
　リリが楽しそうに喋っているときは、僕も楽しく聞こう。<br />
　落ち込んでいるときは励ましてあげよう。<br />
　泣きそうにしているときは、一生懸命慰めよう。<br />
　リリが笑顔でいるときは、僕も笑顔でいよう。<br />
　それは難しくもなんともないことだから。ただ僕は、リリの幸せを思って話していたらいい。<br />
　そしたら、それだけで僕は、彼女にも見抜けない嘘をずっとついていられるだろう。<br />
<br>
「じゃあね」<br>
　住宅街の、緩やかな坂道。街路樹のそば。車から降りたリリは、彼女を見送るために降りた僕にそう言って握手を求めてきた。握りしめた手はやっぱり暖かい。<br />
「――て」<br />
　リリがなにか言った。とても小さくて、僕には聞こえない声で。<br />
「え？」<br />
「ううん」<br />
　笑った大きな瞳から涙がこぼれて僕の手に落ちる。<br />
「さよなら」<br />
　リリが言った言葉の意味に気づき、僕は目を閉じた。<br />
　以前リリは言っていた。さよならって言葉、好きじゃない。だって、なんだか永遠のお別れの言葉みたいに聞こえるんだもの<br />
　永遠の別れの言葉――それが、リリのさよならの意味。<br />
　僕は手を離した。目を閉じたままで。<br />
　コツリ。リリのミュールの音がする。<br />
　ゆっくりと、ためらうように音は遠ざかっていく。<br />
「好きだ」<br />
　小さな声でつぶやいた。たぶんそれは、小さすぎて自分にしか聞こえていない。<br />
「好きだ」<br />
　繰り返し言う。<br />
　目を閉じたまま、僕は遅すぎる告白を続けた。リリ、僕は君のことが好きだよ。リリのことを愛してるんだ。だからずっとそばにいたいんだ。リリ――<br />
　けれど、リリはもう行ってしまっているはずだ。<br />
　だからこの告白を聞いている人は誰もいないだろう。<br />
　僕は目を開けた。<br />
　緩やかな坂の途中。まばらに立つ街灯。街路樹の下。<br />
　優しい夜の風。<br />
　僕はそこに、一人きりで立っていた。<br />
<br>
　帰りに、うちの近くのコンビニに車を止めた。<br />
　リリと自転車で二人乗りして良く来ていたコンビニだ。ほんのひと月前までは。<br />
　なのに、今はそれが遠い日の出来事のように思えてしまう。<br />
　優柔不断な僕はいつものようにたっぷり時間をかけて買い物をして、そして車に戻る。けれどすぐには運転する気になれず、運転席からじっとその青い建物を眺めた。<br />
　コンビニから漏れる眩しすぎる明かりの陰に、僕とリリが隣同士くっつくようにして座っているのが見えた気がした。<br />
　僕は一生懸命、元気のないリリに話しかけていて、リリはそれを、けれどとても優しい表情で聞いてくれている。<br />
　そう、君はいつもそうやって、口下手な僕の話を聞いてくれてたね。<br />
　けれど、リリ。僕は君に、結局なにも伝えられなかった。<br />
　もしかしたら、君はずっと待っていてくれてたのかもしれないのに。<br />
　二人きりで過ごした、幾つもの夜。リリはいつだって、僕がなにか言おうとするのを遮らずに聞いてくれていた。<br />
　ねえ、リリ――<br />
　あの夜を覚えている？<br />
　あの夜のことを、今も覚えている？<br />
　たとえばコンビニの外で、ただ二人きりでいた、それだけの夜。<br />
　もしも、もう一度あの夜に戻れたなら、リリに伝えたい言葉があるんだ。<br>
<br />
　あの夜に戻れたなら。<br />
</span>
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<title>吹く風のように</title>
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<modified>2007-12-17T15:30:01Z</modified>
<issued>2007-04-26T18:43:15Z</issued>
<id>tag:www.cnovels.com,2007://2.18552</id>
<created>2007-04-26T18:43:15Z</created>
<summary type="text/plain"> 　子供の頃に　なりたかったもの 　特になかったけど　しいていうなら風がよかった 　風はあんなに軽くて 　山のてっぺんまでも　軽々と飛び越えていくのに 　俺の体は　こんなにも重く 　学校の　塀も飛び越えられない 　ああ風のようになりたいと 　どんな大変なことも　軽々と超えていけるような 　そんなやつになりたいと　何度思っただろう 　そう男の子がみんな　ヒーローに憧れたように 　俺はきっと　風に憧れ...</summary>
<author>
<name>千歳</name>
<url>http://www.ckotoba.com/</url>
<email>ckotoba@ckotoba.com</email>
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<dc:subject>120_歌詞</dc:subject>
<content type="text/html" mode="escaped" xml:lang="en" xml:base="http://www.cnovels.com/">
<![CDATA[<span style="font-family:'ＭＳ Ｐ明朝','平成明朝',serif;">
　子供の頃に　なりたかったもの<br />
　特になかったけど　しいていうなら風がよかった<br />
<br />
　風はあんなに軽くて<br />
　山のてっぺんまでも　軽々と飛び越えていくのに<br />
　俺の体は　こんなにも重く<br />
　学校の　塀も飛び越えられない<br />
<br />
　ああ風のようになりたいと<br />
　どんな大変なことも　軽々と超えていけるような<br />
　そんなやつになりたいと　何度思っただろう<br />
<br />
　そう男の子がみんな　ヒーローに憧れたように<br />
　俺はきっと　風に憧れていたんだ<br />
<br />
　けどいつからか　なくした気持ちなのさ<br />
　確かにガキだった　俺があの頃言ってたとおりで<br />
<br />
　風はあんなに軽くて<br />
　ビルの屋上までも軽々と飛び越えていくのに<br />
　俺の体は　ますます重くて<br />
　駐車場の　塀も飛び越えられない<br />
<br />
　けど風のようになりたいと<br />
　どんな大変なことも　軽々と超えていけるような<br />
　そんなやつになりたいと　今はもう思わない<br />
<br />
　重たいのは　生きているという証<br />
　これは命の重さ<br />
<br />
　風のように　軽々とでなくていい<br />
　飛べなくてかまわない<br />
　この命と　向き合って生きていく<br />
　そう決めたんだ　だから<br />
<br />
　俺は風のようでなくていいんだ<br />
</span>
]]>

</content>
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<title>タクミとおばあちゃん</title>
<link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.cnovels.com/takumi/takumi_006.html" />
<modified>2007-04-01T14:11:58Z</modified>
<issued>2007-04-01T14:04:04Z</issued>
<id>tag:www.cnovels.com,2007://2.18479</id>
<created>2007-04-01T14:04:04Z</created>
<summary type="text/plain"> 　山田タクミは六歳。 　山田権三郎が五十歳の時にうっかりこしらえてしまった息子です。 「くださいなー」 　タクミはそう言ってお店に入りました。薄暗く、あちこちうっすらと埃のかぶった小さなお店。タクミの家から歩いて5分ほどのところにある駄菓子屋さんです。 　タクミの家からはもう少し近いところに別の駄菓子屋さんがあるので、タクミはこの駄菓子屋さんにはあまり行くことはなかったのですが、たまに、権三郎の...</summary>
<author>
<name>千歳</name>
<url>http://www.ckotoba.com/</url>
<email>ckotoba@ckotoba.com</email>
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<dc:subject>090_タクミ　シリーズ</dc:subject>
<content type="text/html" mode="escaped" xml:lang="en" xml:base="http://www.cnovels.com/">
<![CDATA[<span style="font-family:'ＭＳ Ｐ明朝','平成明朝',serif;">
　山田タクミは六歳。<br />
　山田権三郎が五十歳の時にうっかりこしらえてしまった息子です。<br />
<br />
「くださいなー」<br />
　タクミはそう言ってお店に入りました。薄暗く、あちこちうっすらと埃のかぶった小さなお店。タクミの家から歩いて5分ほどのところにある駄菓子屋さんです。<br />
　タクミの家からはもう少し近いところに別の駄菓子屋さんがあるので、タクミはこの駄菓子屋さんにはあまり行くことはなかったのですが、たまに、権三郎の帰りが待てないくらいとてもお腹がすいている時には、いつもここにくるようにしていました。<br />
「いらっしゃい」<br />
　店に入ると、いつもむすっとした顔をしたおばあちゃんが少しわずらわしそうにそう言って出迎えてくれます。<br />
「お寿司一つください」<br />
「はいよ。四十円ね」<br />
　このお店には、種類不明な魚の切り身を酢で締めた、おばあちゃんお手製のにぎり寿司がおいてあって、このお寿司がタクミは大好きだったのです。<br />
　にぎり寿司はおにぎりくらいの大きさがあり、タクミのちっちゃな体だとこの一個で晩御飯まで十分お腹が持ちました。<br />
「いただきまーす！」<br />
　その場でタクミはお寿司を口にほおばりました。<br />
　と、慌てすぎたタクミはむせ込んでしまいます。<br />
「なにやってんだい！」<br />
　おばあちゃんの罵声が飛びます。<br />
「床が汚れちまうだろ！　汚くするんなら外で食べな！」<br />
　タクミは慌てて店を出て行こうとしました。<br />
「まあ、そう怒ってやるな」<br />
　店の奥でそ