HEART 第三話 高峯学園の新学期 ―the light music band―

新学期。転校生として一緒に登校したノアエティルアを、彬は軽音部に連れて行くが……!

HEART 第三話 高峯学園の新学期 ―the light music band― - 幾千の物語

2002/07/18UP

    1

 その日、高峯学園前通りは久方ぶりの喧噪に包まれていた。
 そのほとんどが、十代の少年少女の、再会を喜びあう声である。それも当然のこと、今日は学園の新学期第一日目なのだ。今日からまた、この緑溢れる並木道は、通学路としての役割を大いに果たし始めることになるのだった。
 そんな賑やかな通りの一角で、彬はいつにない緊張を覚えていた。
(痛い……)
 視線が痛い。一歩進むごとに増えていく視線を、強く意識せずにはいられない。
「おい、アレ見てみろよ」
「げ、すっげえビジン」
「あんなコ、うちの学園にいたか?」
「いや、俺の美少女リストにはチェックされていない」
「転校生?」
「おい、あれ久瀬彬じゃねーか」
「久瀬? なんで奴があんな美少女の横にいるんだよ」
 彬は身をすくませた。その横で、ノアエティルアは機嫌良さそうに鼻歌を歌っている。彼女が最近覚えたその歌は、最近人気急上昇中のアイドルの最新曲であるが、彬の主観によるとノアエティルアはそのアイドルより数段かわいいのだった。
「空をこえて~、ラララ……」
 ついに歌詞まで口ずさみ始めた。本当に、これまでにない上機嫌ぶりである。
(そんなに嬉しいのかな……)
 彼女はブレザーに身を包んでいる。彬のかよう学園の制服である。
 そう、ノアエティルアは今日、私立高峯学園の生徒として彬とともに登校してきているのである。
(学校なんて、たいして面白いとこでもないのに……)
 と、ノアエティルアの歌声がやんだことに気がついて、彬は横を向いた。
「な……なに?」
 子猫のようなまなざしで自分を見上げるノアエティルアに、彬の心臓はにわかにその速度を速める。目を逸らそうにもそらせない、不思議な吸引力をもつ彼女の瞳が、彬に語りかけた。
「どうしたんですか、彬さん? なにか、考え込んでいるみたいでしたけど……」
 なんでもないという彬に、ノアエティルアは不思議そうに微笑む。
「そうですか? ――今日、いい天気ですね」
 そういいながら、ノアエティルアはなにげなく彬に腕を絡めてきた。
 あちこちで何かが落ちる音がした。二人に注目していた男子生徒が、いっせいに鞄を落としたのだ。
 彬は体を硬直させた。濃度の濃い汗が、体中から一気に吹きだす。四方八方から自分に向けて発せられる、明らかな殺気。
 次の瞬間、彬はノアエティルアの手を取り、一目散にその場から逃げ出したのだった。
 彼らの走る方向には開かれた巨大な門扉が、そしてその奥には威風堂々とした近代建築物が、圧倒的な存在感をもってそびえている。
 私立高峯学園。
 ――その高等部本館である。

    2

「では転校生を紹介する。――キミ、挨拶を」
「はい」
 そう言うとノアエティルアは皆に背を向け、背伸びして黒板に自分の名前を書き始めた。以前大量にレンタルした青春映画の影響だろう。どうやら転校生と熱血新米教師とをはき違えているらしかった。女子高生っぽい、短くしたスカートは、みずきの仕立てだ。
 『結城ノア』、黒板にはそう書かれた。ノアエティルアの、ここでの名前である。
 ちなみにみずきはノアエティルアのことを『ノアさん』と呼ぶ。彬はそうは呼ばずに、ただ『ノア』と言うようにしていた。
 振り向いて、その笑顔でたちまちほとんどの男子生徒を虜にし、ノアエティルアは自己紹介した。
「結城ノアです。みなさん、どうぞよろしくお願いします」
 歓声めいたどよめきがはしる。それを無視するように、定年間近の担任が言った。
「えー、みなさん仲良くするように。えーと、久瀬君の隣が開いているな。結城君、あの席に座りなさい」
「はいッ」
(――そこまでするか?!)
 彬は頭を掻きむしった。どうやってかは見当もつかないが、この学園にノアエティルアをもぐり込ませたのも、そしてうまく同じ学年の同じクラスに入れたのも、はては席を彬の隣に用意したことまで、すべてユルガシィの仕組んだことらしい。それも、ノアエティルアの差し金によって。

「この際だから、ユルガシィには色々と手伝ってもらうことにします」

 とは、ノアエティルアの弁である。彼女の思いがけずしたたかな一面だ。
 それにしても。
(やることが徹底してる……)
 確かに、不定期に起こる彬の発作に対処するには、たえず彬のそばにいる必要があった。彬が学園にいるときにはやはり同じ学園、違うクラスよりは同じクラス、離れた席よりは隣の席の方が良いには違いないのだが。
「どうしたんですか?」
「わぁッ」
 彬は気の抜けた悲鳴を上げた。気がつけばノアエティルアはすでに隣の席に座っている。
 しかも、心配そうに彬の顔をのぞき込んでいるのみならず、彬の二の腕に手を置いていた。
 教室のあちこちで、シャープペンシルが一斉に床に落ちる音がした。
 彬は冷や汗にまみれた顔に、笑顔を張りつけるのが精一杯だった。

    3

 休み時間に入ると、案の定クラスの多くの男子生徒たちがノアエティルアの席に集まってきた。
 彼らの質問の雨嵐に、ノアエティルアは一つ一つ丁寧に受け答えしている。何かやばいことを言いはしないかと、彬は気が気でない。
 しかし、そんな彬の心配をよそに、男子生徒の質問に対するノアエティルアの返答は、おおよそそつのないものだった。
 この学園にもぐり込むにあたり、ノアエティルアは、父親の仕事の都合によりヨーロッパのある小国で何年も暮らしていたが、最近になって日本に帰ってきたという設定になっていた。多少複雑ではあるが、彼女が奇妙に思える言動をとっても、確かにそれが十分言い訳にはなるようで、ノアエティルアの少しはき違えた返答にも、彼らはおおむね納得している様子である。
 これならまあ、大丈夫かな。と、彬が安心しようとしたそのときだった。
「ねえ、結城さんて、スリーサイズいくつなの?」
 そんな質問をしたのは、クラスでもスケベで有名な樫尾和夫である。彼には数ヶ月前、女子生徒の身体測定ファイルを盗み出そうとして捕まり、自宅謹慎をくらったという武勇伝(エピソード)があり、女子生徒に対する評判はすこぶる悪かった。それが彼を開き直らせたのか、このところの彼の言動には、迷いというものがまったくなくなっていた。この年にしてもはや、中年親父の領域に達している。
 その質問により、周囲はしんとなった。
 誰もが考えているに違いなかった。ここで樫尾和夫を避難すれば、避難したものに対する彼女の好感度は確実にアップするだろう。しかしそれでは、抜け駆けだといって他の男子に白い目で見られることになる。しかも、彼女のスリーサイズが分かるかもしれないまたとないチャンスは、この時永遠に失われることになるかもしれないのだ。
 そこにいる誰もがおそらくそう考え、そして躊躇した。その隙をついて、なにやらびっしり書き込まれた手帳を手にした樫尾和夫は、さらにとんでもない質問をしたのである。
「あ、好きな下着の色も教えてよ。あ、もちろん今日履いてるやつのこともね。ぐへへへ♪」
「それは言えません」
 彬はノアエティルアを見た。目が合う。その瞳が、心配しないでと言っていた。彬は息をついて、立ち上がりかけていた体を再び席に落ち着かせる。
「だって私彬さんに、スリーサイズと下着の色は彬さん以外の人には教えちゃいけないって言われてるもの。ね、彬さん♪」
 一瞬にして、教室の空気が冷たくなったような気がした。
 隣の教室の物音がやけに大きく聞こえる。誰も、一言も喋ろうとはしない。全ての視線が自分に注がれていると、彬ははっきりと自覚した。
 ――そのまま、どれほどの時が経過したことだろう。
「――誤解だ」
「ほう」
「どのあたりがお前にとっての誤解なんだ、久瀬彬? 返答によっては――」
 殺される。彬は死を強く意識した。
「い、いや、つまり、違うんだ。俺とノアはそんな関係じゃなくて……」
 彬は口許を押さえた。自分の犯してしまった間違いに気づいたのだ。
 この状況下でノアエティルアを呼ぶとき、彼はいつものように『ノア』と呼ぶのではなく、『結城さん』と呼ぶべきだったのである。
 もう駄目だ。彬は絶望した。これ以上なにを言っても、彼らは聞き入れないだろう。
 以前ノアエティルアの日用品を買いに二人で出かけたとき、彬がちょっと離れた隙にノアエティルアに声をかけた中年の親父がいた。その中年の親父が、樫尾和夫とまったく同じ事をノアエティルアに聞いたことがあったのだ。

「スリーサイズ……ですか? えーと――」
「答えなくていい!」
 その時は、戻ってきた彬が慌ててノアエティルアを制止して、なんとか事なきを得た。
 当然彬は、次にそんなことがあったときのためにノアエティルアを指導したのだが……。

(なんか間違って伝わってるし……)
 もう駄目だ、とすっかり観念し、運命に身を任せようと彬がうなだれたその時、ノアエティルアが次の言葉でさらに追い打ちをかけた。
「私たち、一緒に暮らしてるんです」
 ガンッ。彬は机に頭突きした。
「こいつを殺せ!」
 一人が吠えた。
「ちくしょう、抜け駆けしやがってッ」
「お前だけは……お前だけは俺は仲間と信じていたんだぞ!」
「俺に殺らせてくれ!」
「だって私たち――」
「だれかバット持ってこい――金属のやつ」
「ま、まってくれッ! ちくしょう、誤解だー!」
「うるせえッ。死にやがれこんちくしょう!」
「――従兄弟ですもの」
「……え?」
「私、日本に一人で帰ってきたので、従兄弟の彬さんのお家にお世話になってるんです」
「…………」
「…………」
「……おい」
「あ、ごめん」
 彬のその声に、馬乗りになっていたクラスメイトは飛び退いた。金属バットは背中に回され、彬をぐるぐるまきにしていたロープは直ちに取り除かれる。
「あ、久瀬君、服にホコリがついてるよ」
「やだなぁ、そう言うことは早く言ってくれなくちゃ」
「……で、今度キミんちに遊びに行ってもいいよね?」
「俺の傷が癒えたらな」
(……まあ、とりあえずは助かった)
 しかしこれからの事を思うと、まったく心の休まらない彬であった。

    4

 疲れた体を引きずるようにして、彬は校内を歩いていた。その少し後ろを、ノアエティルアが気遣わしげについてきている。
 新学期一日目ということもあって、その日はロングホームでの簡単な連絡事項の伝達だけで下校となった。しかし、それで今日が終わるというわけではない。学生には部活動というものがあるのである。
 彬は第二音楽室に向かっていた。第二音楽室は放課後の間、軽音部の部室兼スタジオとして利用されている。彬はその軽音部に籍を置いているのである。
「ついたよ、ここが軽音部だ」
 そう言いながら、二つある防音扉の一つ目を開ける。半分ほど開けたところで、彬はその動きを止めた。
「どうしたんですか?」
「いや……ドナドナが聞こえる」
「ドナドナ?」
「奥からかすかに音楽が聞こえてくるだろう? あの曲を、ドナドナというんだ」
「――なんだか、悲しいメロディですね。弾いている人の悲しみが伝わってくるよう」
「ドナドナを弾かせたら、やつは日本一だ」
 彬には、ドナドナを弾いている人間が誰だか分かっていた。
 坂上伸也、軽音部のギタリストである彼に間違いない。
 伸也には一つの性癖があった。彼は何か落ち込むようなことがあると、いつも決まってドナドナを弾くのである。不幸と悲しみに満ちた彼の人生は、彼をドナドナ弾きの達人にしてしまった。
 彬はこの曲を聴くのが嫌いだった。たいていの場合、自分もとばっちりをくらわされるからだ。
(今日のところは帰るか……)
 とも思ったが、さすがに新学期初日からサボるわけにもいかない。
 それに今日は、ノアエティルアのことも皆に紹介しなければならない。
 意を決し、彬は前に進む。
「じゃあ、入るよ」
 二つ目の引き戸に手をかけ、中をうかがうようにゆっくりと開けた。
「やあ、久瀬君じゃないか。しばらくだったね」
「あ、新田先輩。こんにちは」
 キーボードのコードを差し替えながらこちらに向かって微笑んでいる青年に、彬は挨拶した。
 彼、新田雄輔は高等部の三年生で、この軽音部の部長であり、軽音部の結成しているバンドのキーボードを担当している。百九十センチを越える長身に筋肉質な体格、さわやかな笑顔と、どう見ても体育会系なのだが、その指から紡ぎ出される音色は繊細極まりない。
「どうしたんだい久瀬君、やけに元気がないようだが?」
「……いろいろありまして」
「大丈夫かい? 今日は坂上もなんだか落ち込んでいるし、僕は心配だよ」
 長身と大人びた態度とで、どう見ても十代には見えない雄輔であるが、とくに留年歴もなく、れっきとした十八歳である。それに彼の場合、態度が大人びているからといって、性格もそうだとはいいがたい部分があった。
「俺が落ちこんでんのは先輩のせいじゃないっすか!」
 ドナドナを止めて、伸也がわめいた。
「これは藪蛇だった」
 雄輔は眼鏡を直しつつ苦笑する。
「どうしたんだ、坂上。なんかあったの?」
 泣いている伸也に、彬は声をかけた。
「……が、ないんだ」
 ぼそりと、ほとんど聞き取れないような声で伸也がつぶやいた。
「……なんだって?」
 聞き間違いだろうか。耳を疑いつつ、彬はもう一度尋ねる。
「部費がもうないんだよ!」
 頭の中で、その言葉を何度か繰り返す。部費が、もう、ない? 彬は愕然とした。
「な、なんで……」
「あれを見てみろよ」
 彬は伸也の指さした方を見た。そこには雄輔がコードを差し替えていたキーボードがある。
「どう思う?」
「新型だね。もう出たんだ。けどあれ、高いのによく買ったなあ。新田先輩が買ったのか?」
「驚くなよ久瀬、あれが部費だ」
「その言い方には語弊があるよ坂上君」
 雄輔は穏やかに正した。
「そうだな、まあ、三割程かな。持っていたお金では足りなくてね。その分を部費で補ったんだ」
「まじっすか?」
 彬はめまいを覚えて頭を押さえた。伸也の悲鳴まじりの声がやけに遠くの方で聞こえる。
「どうすんですか、これから? まだ一年は半分以上残ってるんですよ! 学園祭だってあるのにー!」
「まあ、なんとかなるさ坂上君。それよりほら、この音を聴いてみなよ。
 ――どうだい、いい音だろう?」
「ああああぁぁぁッ! こんな人に部費を預けておくんじゃなかったぁぁ!」
「なんだか楽しそうですね」
 ノアエティルアのその言葉に彬は頬を引きつらせる。
「そ、そうかな……?」
「ところで久瀬君。彼女のことは紹介してくれないのかい?」
 新田雄輔がノアエティルアを見ながらそう言ったのに、彬は当初の目的を思い出した。
 二人にノアエティルアを紹介する。とりあえずここには、見学希望で来たのだということにした。
「見学? なんか楽器やるの?」
 坂上伸也のその問いに、ノアエティルアは首を左右に振る。
「何もできないんです。けど、すごく楽しそう」
「ふーん。なんだったら少しやってみれば?」
 坂上伸也のすすめに、新田雄輔も大いに賛成したようすだった。
「それはいいね! 結城君。なにか、興味のある楽器はないのかい?」
「いいんですか?」
 ちらりと彬の顔をのぞき込むノアエティルアに、彼は頷いてみせた。
「やってみなよノア」
「――彬さんはなにをやるんですか?」
「俺? 俺はドラムだよ」
「じゃあ、ドラム教えて下さい」
「ドラムを? ――まあ、いいけど」
 彬はドラムをセットしようと移動する。その時、体に急激な負荷を覚え立ちすくんだ。
「あ……」
 内蔵が裏返しになるような感触が、全身を満たし始める。彬は確信した。間違いない、それはみずきが旅行から帰ってきた日以来、約二週間ぶりに起こる、三度目の発作だった。
「ノア……!」
 回数を重ねるにしたがって、発作に慣れてきているのだろうか。三度目の今回の発作では、起こってからも声を出すことができた。といっても、その一言だけだが。
「彬さん!」
 ノアエティルアは素早く彬の前方に回り込む。倒れ込もうとする体を支え、膝をついた格好の彬に、そのまま口づけした。風が舞う。
「うそだろ……」
 とは坂上伸也。
「大胆だ……」
 とは新田雄輔の言葉だ。それっきり、二人は絶句して彬とノアエティルアが繰り広げている光景を眺めた。彼らにしてみれば、それはひたすら唐突な出来事としか、いいようがなかっただろう。
「どーも、遅れてすみませーん!」
 丁度そのとき、第二音楽室に元気よく入ってきた少年がいた。真崎聖である。真っ直ぐな長髪の美少年で、ベースとヴォーカル担当を担当する、軽音部のカリスマ的存在である。また高等部一年生ということもあり、軽音部の一番下っ端でもあった。ちなみに彬の妹みずきとは、同じクラスの学級委員長と副委員長の関係である。
「あれれ? どうしたんですか、坂上先輩。部長まで、そんな呆気にとられた顔して」
 真崎聖は何気なく視線をずらす。その柔らかな笑みが、一瞬のうちに凍りついた。
「そ……んな、久瀬先輩!」
 その光景を否定するように首を振る。しかし、目の前の事実はどうしようもない。その目から光るものが溢れた。
「久瀬先輩、信じてたのに……不潔です!」
 そのまま脇目もふらず走り去る聖を、雄輔と伸也はさらに呆然として見送った。
「ふ、不潔……?」
 とは新田雄輔。
「ま……まさかお前ら……」
 とは坂上伸也の言葉である。そして、真崎聖と入れ替わるように、思わぬ来訪者が軽音部を訪れた。
「やっほーッ。お兄ちゃん、みずき遊びに来ちゃ――――☆●◇■★#!?!」

 新学期初日、軽音部は非常に賑やかにその活動を再開した。

    5

 ――ずっと昔、まだ地球が丸いということさえ知らなかった子供のころ、空に煌めく星をなんとか捕まえようと、繰り返しジャンプしては手を伸ばしていた記憶がある。
「俺も馬鹿だな。そんなことをしても、星なんて、掴める訳がないのに」
 それなのになぜ自分は、こうしてまた手を伸ばしているのだろう。
 彬は腕を下ろすと、その手のひらを眺めた。ため息を一つつく。
 夜。彬は一人バルコニーにいた。膝を片腕で抱え、もう一方の手をそっと、顔にあてる。
「ッツ――」
 痛みに顔をしかめる。彼の顔は傷だらけだった。みずきに殴られたり蹴られたり引っかかれたりして出来た傷である。
「今日は疲れたな……」
 肘の辺りになにかが触れたような気がして視線を落とす。
「ユミ……」
 一声、ゆっくり鳴くと、ユミはなんでもなかったかのように去っていく。そこには、まだ新しいスズメの死骸があった。
「……寝よう」

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Posted by 千歳 at 2002年07月18日 16:00 EDIT
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