「もうヤダ」 いきなりすねちゃっててごめんね。 でも理由をきいたら、わかってくれる女の子もいると思うんだ。 きょうはクリスマスイブだった。予定をばっちりあけて、何日も前からヨシオくんとのスペシャルデートを楽しみにしてた、そんな特別な日。 あ、ヨシオくんっていうのは、付き合って2ヶ月になる彼氏ね。 けど、いま思えば最初からつまずいてた。 まず、ヨシオくんからなかなかデートのお誘いがこな...
「もうヤダ」
いきなりすねちゃっててごめんね。
でも理由をきいたら、わかってくれる女の子もいると思うんだ。
きょうはクリスマスイブだった。予定をばっちりあけて、何日も前からヨシオくんとのスペシャルデートを楽しみにしてた、そんな特別な日。
あ、ヨシオくんっていうのは、付き合って2ヶ月になる彼氏ね。
けど、いま思えば最初からつまずいてた。
まず、ヨシオくんからなかなかデートのお誘いがこなかったこと。
はじめのうちは、明日はくるかな、明日はくるかなってずっと待ってたんだけど、ぜんぜんこなくて。それで心配になってきて、ついに遠まわしに電話できいてみることにした。
「ねぇねぇ、1週間後の予定とかどうするの?」
『1週間後って?』
「ほらぁ、デートコースとか、いろいろ考えなきゃいけないことあるでしょ?」
『デートコース? ていうか1週間後ってオレたち会う約束なんて――』
「ちょっと待って」
不穏な空気を感じて、それ以上彼が不用意な発言をする前にさえぎった。
「今、カレンダー的なものみれない?」
『ん? みれるけど』
「じゃあ、みて。さて、1週間後は何日でしょうか?」
『ええと、来週のきょうはニジュウヨ……あ』
にぶい彼氏も、さすがに気がついたらしい。
『……ク、クリスマスイブだろ? もちろんいろいろ考えてるさ』
「ふーん」
じゃあ、さっきの『あ』はなによ。
と内心思ったけど、それは口にしないでおいた。
イブの1週間前に、ケンカなんてしたくないもの。
「じゃあ楽しみにしてるから、ちゃんと誘ってね」
ヨシオくん忙しいヒトだから、たまにはウッカリすることもあると思うの。
でもだいじょうぶ。あのヒトは、最後にはちゃんと結果を出してくれるって信じてる!
と、このときはまだ思ってたんだよね……。
というわけでクリスマスイブの3日前に、ヨシオくんからイブの夜あいてる? ってメールがきて。
当然あけてるに決まってるんだけど、ちょっともったいぶったやり取りしてから、最後に『あいてるよ★』ってメールを返した。
待ち合わせ場所の指定がきたのはイブの前日だった。デートするとき、いつも待ち合わせに使っている駅前。
何度かメールのやりとりをしていたら『おやすみ』って返ってきて、たしかにもういい時間だったから素直に「おやすみ」って返す。
ベッドのそばの照明を暗くして、眠ろうとする。
…………。
……ダメ、眠れない!
寝返りを何度かうって、あきらめたわたしはそばのリモコンをピッと押した。小さなスピーカーから、音楽がきこえはじめる。
もう、ワクワクして眠れないよ。
小さなころの遠足の前日みたい。
ヨシオくんはもう寝ているはずだから、メールも送れないし。
かわりに少し前のメールを何度も読み返してみる。ほっとため息。
ねえ。
あなたは、どんなあしたをプレゼントしてくれるのかな。
そしてついにイブの夜。
よく使ってる駅なのに、この日はやっぱりいつもと違う感じがする。道ゆくヒトたちがみんなしあわせそうにみえるのは、わたし自身がウキウキしてるからなのかなぁ。
わたしはいつもよりちょっとだけドレスアップして、滅多に選ばない真っ赤なコート着て、ヨシオくんが来るのを待っていた。
けど……遅いなあ。
「ごめん、仕事が立て込んでてさー」
ヨシオくんは、約束の18:00に10分遅れてやってきた。仕事が忙しかったんならしょうがないよね。
「いいよ。お仕事おつかれさま」
にっこり笑ってから、ヨシオくんの腕に手を回す。
「おう、じゃあいこうぜ」
「どこつれてってくれるの?」
「フッ、きょうはオレにまかせろよ」
えーなにこの思わせぶり&頼もしいセリフ!
すっかり期待に胸を膨らましてついていったわたしを迎えてくれたのは、ふだんよくデートに使ってるショッピングモールだった……。
「やっぱりここもクリスマス一色だなあ」
とか言ってヨシオくんは素直に感嘆してる。
「…………」
そりゃたしかにきょうのショッピングモールはクリスマスネオンがいっぱいできれいだよ? でもね、わたしここ3日前に友達ときたばっかりなの! だってクリスマスセールだったし。
「あのツリーなんてなかなかだよな」
そのツリーももうみてるし。ていうか写真も撮ってブログにもアップしたのにみてないの?
「ほら、きょうはクリスマスセールやってるんだぜ。ちゃんとWEBでチェックしておいたんだ」
だからそのクリスマスセール目当てに3日前にきてるんだって! ていうかここのサイトはチェックして、わたしのブログはチェックしてないわけ?
「あのねー!」
「え?」
思わず大声張りあげそうになったのを、ヨシオくんはきょとんとした顔をしてくる。
それをみて、ギリギリのところで思い直した。
いけないいけない。せっかくのイブなのに、こんなことで暗い影とか落としたくないし。
3日前にきてたことは、ヨシオくんには秘密にしておこうと決意する。
「ホント、安いよな。これなんて5割引だぜ」
「あ、うんそうだね。もう、なににしようか迷っちゃう」
もう欲しいものは3日前に買ってしまってるんだけど、なにも買わなかったら買わなかったでヨシオくん落ち込みそうだし。
というわけでわたしは、前回どうしようか悩んでやっぱりなんか違うと思ってやめたカーディガンを、けっきょく買っちゃうハメになったのでした……。
けどね、ここまではまだよかったの。
ヨシオくんも、ショッピングモールで終わりってつもりはなかったみたいで、買い物がすんだら今度はイルミネーションスポットにいくことになった。
ヨシオくんがいくと決めていたイルミネーションスポットはすごく有名で、わたしも一回いってみたいと思ってたところだったから大賛成したのね。
で、駅に戻って電車に揺られて、目的の駅についたらそこはカップルでいっぱいだった。
「すげえな。みんな目的はおなじってことか」
「いまからこれだと、イルミネーションの場所すごいことになってそうだね」
とか言いながらも歩きはじめる。そして予想通り、歩けば歩くほどカップルの数は増えていって、ついに前がつっかえはじめてゆっくりしか進めない状態に。
そのうちに、きょうのためにと買った、履き慣れない、高いヒールのブーツが災いして、途中から足が痛くなってきてしまった。
「ねぇ、あとどれくらいかなあ」
「うーん、この調子だと、15分は歩くかもな」
「えー」
それはつらいかも……。
「……ねぇ、ちょっと足痛くなってきちゃった」
「なに、だいじょうぶか?」
ヨシオくんは心配そうにきいてきてくれる。
正直いってだいじょうぶじゃなかった。でも、彼がせっかく組んでくれたデートプランを、わたしからNGだすのってやっぱりちょっと気が引けちゃって。
だから「う、う……ん」とかって言葉をにごしてたら、それで察してくれたのかな? ヨシオくんが力強くうなずきながら言った。
「よし、えらいぞ。もうちょっとだからな。ガンバレ!」
と言って手を握ってくれる。って、なにも察してないし!
わたしが「うん」て言ったって誤解したんなら違うから! 「うん」じゃなくて「ううん」だから!
ここはさすがに訂正しとこうと思ってたのに、ヨシオくんは「いやあ、イルミネーション楽しみだなあ。8時ちょうどにイベントとかあるらしいぜ」とか言っちゃって、超楽しみにしてるの。
そのワクワクした顔みてたら、いくのやめたいとか言えなくなって、結局痛みをガマンしながらついてくことになっちゃった。
で、さらに20分歩いて、なんとか目的のイルミネーションスポットにたどり着いた。イベントにもギリギリ間に合ったみたい。
イベントの中心部分はぎっしりヒトで埋まってたから、歩道からしか眺めることできなかったけど。でも、ここからでもばっちりみえるすっごく大きなツリーがあって、キラキラしててほんとにキレイだった!
そして時間になるとどこからか鐘の音がして、それに合わせてイルミネーションの光が瞬きはじめて、さらにさっきまでついてなかったイルミネーションまで点灯してもう光の奔流って感じ。
すっごくステキだったー! ヨシオくんなんて感激して泣いちゃってたし。
でもこのあと、新たな悲劇が待っていた。
イベントが終わって、いっせいにカップルたちの大移動がはじまったんだけど、歩道にいたものだから、わたしそれに巻き込まれちゃって。
「あ」
ヒトの流れに逆らえなくて、ヨシオくんがどんどん離れていってしまう。
ヨシオくんはイベントの余韻にひたりきっちゃって、そもそもわたしがどんどん離れていってるってことにさえ気づいてなかった。
「ヨシオくんー!」
思い切って大声で呼ぶ。それでやっと、わたしが遠ざかってるって気づいてくれた。
けど、ときすでに遅し、やっとヒトの流れから逃れたころには、完全にヨシオくんを見失ってしまっていた。
しかも悲惨なことに、ヒトが多すぎるせいでケータイなかなかつながんなくて、再会できるまでに30分くらいかかってしまった。
カップルだらけの中、ひとりでいるのってとても孤独で、ヨシオくんを探しながら泣いちゃいそうになる。
でもイブにこんな涙は流したくなくて、必死に涙をこらえる。
そして。
「おーい」
ヨシオくんがやっとわたしをみつけてくれて、かけよってきた。
「ヨシオくん!」
ひどい目にあったはずなのに、再会できたのがその分とても嬉しくて、なんかさっきまでのマイナスな気分が一気に吹っ飛んでしまった。
よかった再会できて!
「ごめん!」
両手を合わせて謝るヨシオくんに、わたしはううんと首を振った。
「もういいよ。それよりおなかすいたからディナーいこ?」
「そうだな、なに食いたい?」
えぇ、予約とかしてないの? だいじょうぶかなあ。とか思いながらこたえた。
「んー、まかせちゃう」
結局ヨシオくんがつれてってくれたお店は席も空いてて、無事待たずに座ることができた。
「な、だいじょうぶだったろ?」
「まあ、ね」
「どうした、元気ないな? 足まだ痛い?」
「ううん、座ってたらへいき、だけど……あのね?」
「ん?」
歩いてると足が痛くてたまんなかったし、あんまり歩かないでお店についたのも、すぐに座れたのも嬉しかったんだけど……。
わたしは家族連れの多い店内を見回しながら、小声できいた。
「なんでファミレスなの?」
「え、おまえここの味好きだろ? やっぱりこういう日は、好きなものを食べるのがいちばんだよな、うん」
このヒト本気で言ってるんだろうかと、まじまじとヨシオくんの顔をのぞき込んだ。
「おい、そんなにみつめるなよ。照れるだろ」
「アハハ……」
彼氏に愛想笑いしてしまった。
このときにはわたし、完全に気づいてしまっていた。
自分の彼氏が、超のつく天然キャラだってことに。
付き合って2ヶ月。うすうすこのヒトが天然だって思ってはいたんだけど、まさかここまでだったとは。
そんなこと考えてたら、ヨシオくんが急にソワソワしはじめた。
「あのさ……クリスマスプレゼント持ってきてるんだ」
「え、そうなの?」
なんて驚いた声を出してみる。
でもね、彼がプレゼント用意してくれてるって、実はきょう会ったときから気づいてたというか、バレバレだったんだ。
だって、会ったときからヨシオくん、ピンクのリボンが結ばれた、すっごく大きな袋を持ってたんだもん。それって絶対プレゼントだよね。
「はい、プレゼント」
て言って、その大きな袋を渡してくれる。
ピンクのリボンは、最初はキレイに整っててかわいかったけど、イルミネーションのとき人混みにもまれたせいで、いまはボロボロだった。
「わぁ、ありがとう! ね、あけていい?」
真っ白な袋もちょっぴり破けてしまっていて、そこからピョンと茶色い毛が飛び出してたから、もう中身もだいたいわかってたんだけどね。
わたしはクマのぬいぐるみが大好きで、前にそれを言ったことがあって。
だからきっとそれを覚えててくれて、クマのぬいぐるみを買ってくれたんじゃないかな。
(ぬいぐるみかー)
心の中でため息をつく。ううん、クマのぬいぐるみはうれしいの。とても。
でもね、なんでクリスマスにぬいぐるみ? とも思ってしまう。
クリスマスにぬいぐるみって、わたし子供じゃないし。みたいな。
「あけてみなよ」
「わー、なにかな」
プレゼントの存在に気づいてたことも、中身がなにかだいたいわかってしまってるのも、自分だけの秘密にしておこうと思った。
だってヨシオくん、わたしが袋をあけようとしてるところを、すっごくワクワクした顔でみてるんだよ? 本当のことなんて言えない。
しわくちゃになったリボンをほどくと、中から大きなぬいぐるみが出てきた。
「わぁ、クマさん……じゃない、ウマさんだぁ」
クマのぬいぐるみが出てくると思って喜ぶ準備をしていたわたしの予想ははずれてた。
なんで、なんでウマ?
「フフ」
ヨシオくんは、予想外すぎてなかばパニック状態のわたしを、かなり喜んでるとでもカンチガイしたのか、してやったりみたいな笑みを浮かべている。
「おまえ好きだろ、ウマ」
「う、うん」
ウマが好きだなんて言った覚えないし。前にぬいぐるみの話はしたけど、そのときはなんのぬいぐるみが好きってきかれて、たしかクマってこたえたはずだった。
も、もしかして……あのとき、『クマ』を『ウマ』と、ききまちがえてた?
「ヨ、ヨシオくん」
「ん?」
どうしていいかわからず、やっとのことで言った。
「あ、ありがとう」
「うん」
ヨシオくんがこの日の最高の笑顔でうなずいた。
でも、こんな状態で楽しいトークを続けられるはずもなくて。
いちおうこのあと、わたしからもプレゼントのマフラーを渡したの。ヨシオくんはすごく喜んでくれたんだけど、それからふたりの間の空気は、どんどんぎこちないものになっていった。
わたしの笑顔が引きつってるって、ヨシオくんもさすがに気がついたみたい。
それでもがんばっていろんな話をしてくれる気持ちは嬉しかったけど、もうわたしのテンションはすぐには回復不能なところまで落ちてしまっていた。
でもきょうという日を、嫌な思い出にはしたくなかった。だって、わたしの人生ではじめての、彼氏と過ごすイブの夜だったから。
なのに会話は空回りしたまま、どんどん時間が過ぎていく。
「あー、じゃあそろそろ出よっか」
「うん、そうだね……」
「駅まで送るよ」
え、きょうはお泊まりするんじゃないの?
と、それきいて思ったけど、なんかすぐにあきらめの気持ちがわいてきて、言わなかった。
ヨシオくん、明日仕事なんだろうしね。
店を出て、駅に到着して。
「じゃあね」
改札の手前で、見送ってくれるヨシオくんに別れを告げる。
「おう、気をつけて」
「うん」
改札を通り抜ける。うしろを振り返ったら、ヨシオくんが手を振ってくれた。
それをみたら急に涙が出そうになって、あわてて背を向けて、ホームへの階段をかけあがってしまった。
電車を待ちながら、白い息を吐く。それは重たくて長いため息になった。
重たいためいきは、だけどすこしだけ空に近づいて消えていく。
電車がやってきたので中に入った。
しまるドア。変わりはじめる景色。わたしは実感した。
ああ、終わったんだ。
わたしのイブ――はじめての、彼氏とのステキなイブの夜。
「ただいまー」
ブーツを脱いで、足を引きずるようにして部屋の電気をつける。
あたりまえだけど、ひとり暮らしの部屋には誰もいない。
壁の時計は11:40だった。
たしかイブって、日付がかわると終わるんだっけ。
わたしのイブは先に終わっちゃったけどね。
「……足いたーい」
エアコンつけて、コートを脱ぎながら文句を言ってみる。やっぱり誰もこたえてくれない。
「もうヤダ」
ため込んでたものを吐きだすように言って、ベッドに倒れこんだ。
で、それきりもう力尽きたみたいにぼーっとしてると、きょう一日のことがよみがえってくる。
いつもの駅で待ち合わせて。
3日前にいったばかりのショッピングモールにつれてかれて、そんなに欲しくなかったカーディガン買って。
たくさん歩いて、痛む足のなかイルミネーション眺めて。イルミネーションに夢中になりすぎた彼氏とはぐれてしまって。
そのあとファミレスにいって、なぜかウマのぬいぐるみを渡されて。
お泊まりもしないまま駅の改札で彼氏と別れて、それでイブの夜はおしまい。
ね、わたしがすねちゃうのも、無理ないと思わない?
しかもさらによくないことに、別れるときにちょっと泣いてしまった。
「泣いちゃったの、みられたかな……」
みられてたとしたら、どう思われただろう。めんどくさい女とか思われてたりしたらどうしよう。
けど、ヨシオくんもヨシオくんだよ。
もっと、楽しいイブにしてくれたらよかったのに。
なぜかいつもクリスマスには彼がいなかったわたしにとって、彼氏と過ごすイブって憧れだった。そのせいもあって、ずっといろいろ想像してたの。
たとえばキャンドルナイトイベントとかみて、そのあと超ステキな夜景がみえるレストランにいって、夜は高級ホテルで、部屋にはクリスマスツリーが飾り付けしてあって。
朝起きたらツリーの下にサンタさんからのプレゼントが置いてあるの。
プレゼントはかわいい指輪とかで、裏にはイブの日付と、ふたりの名前がほってあるんだよ。
ため息をつく。
わたしバカだ。
こんなふうにいろいろ想像しすぎて、期待がどんどん膨らんで、結局現実とのギャップに失望してるんだもん。
ホント、バカだね。
――あれ?
そんなことを考えはじめて思考がどんどんネガティブモードになっていってたとき、部屋のすみに追いやっていた置き電話がピカピカ光ってるって気づいたの。
伝言が入ってるみたい。
ふだんケータイしか使ってないから、部屋の電話機に着信があること自体めずらしい。たまーに、お母さんから電話がかかってくるくらい。
伝言もだからお母さんからかなって思ったら急に声がききたくなって、再生ボタンを押した。
『18:01のメッセージです』
無機質な女性の声でアナウンス。
ちょうど駅で待ち合わせしてたころだ。18:00に待ち合わせだったのに、ヨシオくん遅刻したんだよね。
『もしもし、オレ』
「えぇ、なんで?」
声の正体はヨシオくんだった。驚いて、メッセージに向かって話しかけてしまう。
けれど数時間前のヨシオくんに声が届くわけない。
『これをきいてるときは、たぶんデートから帰ったばかりのころだよな。イブの夜は楽しかった? オレはいま緊張してるよ。実は、イブのデートってはじめてなんだ』
え、ヨシオくんも……?
『ショッピングモールは楽しかった? あそこじゃいつもおまえ値札にらんでたから、きょうのセールを知ったら絶対喜ぶと思ってさ。イルミネーションは? イブのデートといえばイルミネーションだって先輩が言ってたから、ネットで人気スポット調べまくったんだぜ。あと、おまえの好きなウマのぬいぐるみは気に入ってもらえたかな。ウマって意外とおいてなくて、かわいいのみつけるの大変だったよ』
ききながら、今頃になって気がついた。ヨシオくんだって、いっしょうけんめい今夜のことを考えてくれてたんだって。
自分のことしか考えてなかったわたしと違って、彼はこんなわたしのことだけを、ずっと想ってくれていた。
『オレたちさ、付き合いはじめてまだ2ヶ月とちょっとしか経ってないだろ? 正直まだよくわかってないかもしれないんだ。おまえの好きなものとか』
優しい声で、ヨシオくんは続ける。
『おまえはたぶん、買い物が好き。好きな色はピンクだな。夜景が好きだから、イルミネーションもきっと好き。ぬいぐるみはウマ。あと、あのファミレスの味がマイブーム――どう? これぜんぶ当たってたら、今夜のデートは成功間違いなしだ』
優しい声をききながら、気がついたらわたし泣いてしまっていた。
『たぶん照れちゃって面と向かっては言えないと思うから、ここで言っとくよ。きょうは一日ありがとうな。あと、いつもオレのそばにいてくれてありがとう。オレを好きでいてくれてありがとう。オレも好きだよ。だから、これからもよろしく』
「ヨシオくん――」
それ以上は、声にならなかった。だから心の中で言ったの。
わたしのほうこそありがとう。
せっかくヨシオくんの気持ちがこもったイブだったのに、すねちゃってごめんね。
『そうそう、最後にもう一個、サプライズがあるんだぜ。まずウマをみてくれ』
え、サプライズ?
キョロキョロと部屋を見回す。あった。もらったばかりの白い袋は、申し訳ないことに部屋のすみっこに捨てられたみたいに転がっていた。
あわてておウマさんのぬいぐるみを袋から取りだす。すこし前まで微妙な気持ちしか与えてくれなかったぬいぐるみが、いまはとても大事な宝物に思えた。
わたしがぬいぐるみを手にしたのを見計らったように声は続いた。
『ぬいぐるみの背中に、チャックがあるのわかるか?』
チャック? ――あった。
『そのチャックあけてみてくれ。本命のクリスマスプレゼントが入ってるからさ』
チャックを引っぱって中に手を入れてみると、四角いアクセサリケースがみつかった。
震える手でちっちゃなケースのフタを開く。中には、ピンクゴールドのリングがきらめいていた。
『気に入ってくれた? 留守電で長い時間ごめんな。じゃあそろそろ切るから。これからおまえに会うからさ――やべ、遅刻しちゃったよ。おまえ許してくれるかな』
メッセージはこれでぜんぶだった。
リングにみとれていたわたしは、ハッとしてケータイを探した。みつかったケータイのいちばん上の発信履歴をクリックする。
コールが鳴りはじめた。
『もしもし』
すぐにヨシオくんは出てくれた。
「ヨシオくん、プレゼントありがと――ごめんね、わたしきょういい子じゃなかったかも。ステキなイブありがとね。すっごく嬉しいよ。きょう、最高のイブだったから。指輪も大事にするね」
ということを言ったつもりなんだけど、涙がどうしても止まらなくて泣きじゃくりながらだったから、ちゃんと伝わってない気がする。
『よかった』
それでも、ヨシオくんは嬉しそうに言ってくれた。
『最後、別れ際に泣いてた気がしたから気になってたんだ。足痛かったんだろ? ごめんな、オレ、まさか泣くほど足が痛いだなんて思ってなかったから』
「ううん、いいの。もう痛くないし」
泣いてた理由は違うけど、そこはあえて指摘しないことにする。
『あ――いまちょっと窓の外みてみろよ』
「え、なに?」
窓の外って、もしかして雪? ホワイトクリスマス?
「ちょっとまって。いまみるから」
すばやく涙を拭いて、鼻をかんでから、窓のカーテンをあけた。よくみえない。思い切って窓をあけて寒い中ベランダに出てみた。
うーん、雪は降ってないよね?
「別になにも――」
言いながら下をみて、ハッとした。
ベランダのすぐ下にある公園でわたしをみあげているのが、トナカイの角を頭に生やしたヨシオくんだって気づいたから。
すぐに部屋にかけもどって、サンダルで外に飛び出した。階段を降りて、手をふるヨシオくんのもとに走る。
「びっくりした?」
ヨシオくんはいたずらっ子みたいな笑顔だった。
「もうちょっとして電話かかってこなかったら、オレから電話するとこだったよ」
トナカイの角がついたカチューシャをヨシオくんから取りあげる。
息を整えようとしながらきいた。
「なんで、トナカイ、なの?」
「え、だってクリスマスだから」
「だったら、サンタさんの帽子で、いいでしょ」
「あ、そうか。たしかに」
ホントこのヒトって、どっかずれてる。そう思いながら、彼のそんなところを大好きになってる自分に気づいて驚いた。
わたしって、ヨシオくんのこといままでちゃんとみてなかったんだなって思う。
イブに彼氏とステキなデートするって勝手にワクワクして、けどただワクワクするだけで、デートプランとかぜんぶ相手にまかせきりで自分はなにもしない。
こんなダメな彼女なのに、ヨシオくんは彼だけのやりかたで、わたしと最高のイブを過ごしてくれた。
遠くから鐘の音がきこえてきた。
「なんだこの音――どっかで火事か?」
「ううん」
わたしはヨシオくんに教えてあげた。
「0:00になったんだよ。むこうに教会があるから、たぶんそこ」
「あ、そうかぁ」
「ねぇ、寒くなってきちゃった。ウチの中入ろう?」
「そうだな――」
続けてヨシオくんは、先に歩こうとしたわたしの名前を呼んだ。
「え、なに?」
「メリークリスマス」
振り向いたわたしに、冷たくて、優しいキスをしてくれる。
目を閉じる瞬間みえた星空が、とてもきれいだった。
しらないうちにまた涙がこぼれてくる。
顔を離したヨシオくんが、泣いているわたしに気づいて驚いた顔をする。
ヨシオくんのなにか言おうとしたシタクチビルに、こんどはわたしからキスをした。
ふたりが吐いた息が重なって、すこしだけ空に近づいて消えていく。

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