優しくきゅっと - noise Vol.05 - 05・06

   5  シンくんとはじめてエッチするようになってからずっと、アタシはシンくんに夢中だった。  あ、正確にはあの日、noiseの初ライブで彼の歌を聴いてからなのかなぁ。  シンくんの歌声は予想してたよりずっと素敵で魅力的だった。  オキとハルトくんとシンくんにnoiseの結成を宣言されてから2ヶ月が経っていた。新曲も2曲あったけど、後は全部BREATHの楽曲だった。  そう――同じ曲のはずなの...

優しくきゅっと - noise Vol.05 - 05・06 - 幾千の物語

2009/10/06UP

   5

 シンくんとはじめてエッチするようになってからずっと、アタシはシンくんに夢中だった。
 あ、正確にはあの日、noiseの初ライブで彼の歌を聴いてからなのかなぁ。
 シンくんの歌声は予想してたよりずっと素敵で魅力的だった。

 オキとハルトくんとシンくんにnoiseの結成を宣言されてから2ヶ月が経っていた。新曲も2曲あったけど、後は全部BREATHの楽曲だった。
 そう――同じ曲のはずなのに、シンくんが歌うとまるっきり違った曲に聞こえた。
 ハルトくんが歌ってた頃も素敵だったけど、シンくんが歌うと、カラダの中に直接響いてくるような感じがしたの。
 みんな同じように感じてないんだったらアタシだけがそうだったのかなぁ。いまはもう慣れたけど、はじめてシンくんの歌を聴いたあの夜、立ってられなくて、ほとんど気を失ってるみたいだった。
 ライブが終わって10人くらいで打ちあげしてる間もずっとフワフワしてて、心とカラダが離れたみたいになってた。説得した甲斐あってライブに来てくれたリリが、心配そうに話しかけてきてたけど、それもほとんど耳に入らなくて、ただシンくんの声がずっとアタシをかき回していた。
 そんな感じでずうっとボウっとしてたから、さすがにみんなが本気で心配しだして、このままだとよくないと思ったから先に帰ることにした。そのとき、隣に座ってたシンくんに「ね、そこまで送って」ってお願いしちゃったんだ。
 シンくんはお酒をあまり飲まないヒトで、慣れないライブですごく疲れてたみたいだったから、帰るいい口実になるって思ったんだろうな。すんなりOKしてくれて、いっしょにお店を出てくれた。アタシって本当に具合悪く見えてたみたいで、シンくんは歩きながらずっと心配してくれてた。それでますますキュンとしたアタシは、シンくんに抱きついちゃった。
「え、アヤちゃん?」
 シンくんが慌てた感じできいてくる。
「気持ち悪い……」
「ええ、吐きそうとか?」
「ううん……少し休めばだいじょうぶ」
「そうかぁ、このへんでどっか座れるとこあったかなぁ」
 シンくんから少しカラダを離して、うるんだ目でシンくんをじっと見つめて言った。
「アヤ、どこかゆっくりお休みできるトコいきたいなぁ」
「そうなの?」
 シンくんがなにかに気づいたみたいに、アタシの腰に手をまわしてくる。
「じゃあ、ホテル行こうか」
「うん、けどなにもしないでね?」
「もちろん」
 シンくんはそう言ってニッコリ笑った。

 でも、実際にはなにもしないなんてあるわけなくて。
 ホテルに入ってすぐ、アタシたちはキスをした。頭のてっぺんからつま先まで痺れていくような、柔らかくて甘くて少しだけ痛いキス。
 そのままベッドに押し倒されて、カラダを密着させたら彼も熱くなってるってすぐにわかった。
 その次からのことは頭が痺れすぎたせいでほとんど覚えていない。
 彼が1回イクまでの間に、何回イッちゃったんだろう。気がついたら、甘い痺れに満たされた頭を、シンくんが優しくなでてくれていた。
「気持ちよかった?」
 アタシは答えなかった。だってよく覚えてなかったから。
「ね、うでまくらして」
 答える代わりにおねだりして、腕まくらしてもらう。
 少しずつ意識がはっきりしてくる。シンくんをじっと見た。困ったように話しかけてきたり、頭をなでてくれるシンくんが急に愛おしくなって、彼の肩を甘く噛んだ。かすかに漏れるシンくんの声がまた頭を痺れさせる。そのまま肩を何度も優しく噛んで、首筋を噛んで、身を起こしてシンくんにまたがって、鎖骨を噛んで乳首をそっと噛んだ。
 そのたびに声を漏らすシンくんに言う。
「アヤ、さっきしたエッチのこと、覚えてない」
「ええ!?」
 それがよっぽどショックだったらしくて、シンくんはさっきまでの甘い口調ではない普通の声できいてきた。
「な、なんで!?」
 気持ちよすぎてだと思うけど、よくわかんなかったから「わかんない」って答えたら、シンくんはさらにショックを受けてるみたいな顔になった。ちょっと罪悪感を覚えて言った。
「次はちゃんと覚えておくようにするね」
 そしてシンくんの乳首に何度もキスをして、また優しく噛んだ。そのままいろんなところにキスしたり噛んだりしながら、下にさがっていく。
 噛み癖が気になったのか、シンくんが不安そうにカラダをこわばらせたのが少しだけおかしかったけど、笑うのはガマンした。
 そして数分もしたら、アタシはまた真っ白な世界に連れて行かれてた。

 その夜以来、アタシの頭の中はシンくんでいっぱいになった。
 オキがたまに指摘してくる通り、アタシはちょっと惚れっぽいところがあって、リリにもよく心配されたりする。でもね、同時に複数のヒトを好きになったりはしないんだよ。
 誰かを本当に好きになったら、もうその人しか見えない。他の人が入りこむ余地なんてこれっぽっちもなくなる。だからいま、アタシの頭の中はシンくんでいっぱいだった。
 メールは毎日送ったし、電話もたまにかけた。本当はもっとたくさんメールしたり電話したりしたかったけど、あんまり送りすぎて気持ち悪がられて嫌われたりとかするのヤだったからガマンした。
 シンくんはそんなアタシをちゃんと相手してくれて、メールも結構返してくれたし、電話もすぐに出てくれなかったりしても、あとでちゃんとかけ直してくれた。
 デートに誘ったらいつもオッケーしてくれるし、お泊まりも何度かした。アタシたちってすごくカラダの相性いいみたいで、するたびに気持ちよくなってゆく気がする。そして、シンくんを好きな気持ちも、どんどん強くなっていくの。
「好き、好き!」
 ある日、シンくんとつながってるときに夢中でそう言ってしまった。何度も何度も好きって繰り返したの。
 これまでシンくんに好きって言ったことは一度もなくて、これがはじめての告白だった。
 シンくんはそれにはなにも言わずに、ただキスで返してくれる。口をふさがれたら息をするのが苦しくなる。酸素が足りなくなって、ますますなにも考えられなくなっていく。そしてそのまま意識をほとんどなくしたみたいになる。
 つながったまま、この日も何度もイかされた。
 ずっとガマンしてくれてたシンくんもついに終わって、優しくキスしてくれたあと、慎重に離れた。少しして喋れるようになったら、アタシはシンくんをじっと見つめた。
「どうしたの?」
 穏やかな声で、シンくんは聞いてきてくれる。
「好きなの」
 正直に打ち明けた。
「アヤね、シンくんを好きみたい。すごく、すごーく好きみたいだよ」
「ありがとう」
 シンくんはとても嬉しそうな顔をして言ってくれた。でもそのあとすぐに困った顔をして目をそらす。その瞬間に後悔した。なんでこんなこと言っちゃったんだろう。
「ぼくも好きだよ」
 また目を合わせてそう言ってくれたシンくんの、けれど好きの言葉の意味はアタシとは違くて。
 こんな悲しい『好き』ははじめてだと思いながら、すがるようにきいた。
「ほんとうに?」
「うん、けれどいちばん、じゃないんだ。アヤのことは好きだけど、いちばん好きな人がほかにいるんだ」
 いまフラれてるんだと思った。打ち明けてくれてるシンくんはとても真剣で、それが余計にアタシの心を傷つけてゆく。
「なにそれ」
 カラダが冷えていくのを感じて、自分自身を抱きしめる。
「意味わかんない。好きだけどってなに? 好きじゃないなら、ちゃんとゆってよ」
「違うよ。好きだよ。けど――たぶん愛せない」
 こんな感じで、アタシはさっきまでお互いをあんなに求め合っていた相手にフラれてしまった。
 泣きだしたアタシを、シンくんがためらいがちに抱きしめようとしてくれる。
「放して」
 はじめてシンくんを拒否した。
 素直に手を放したシンくんが、壊れるくらい抱きしめてくれたらいいのにと思いながら泣いた。

 少しして、ほとんど無言のままお互い服を着て、ホテルを出る。
 スタスタ歩くアタシを、シンくんは追いかけてきてはくれなかった。
 追いかけてくれたらよかったのに。
 そして、いまからでもギュってしてほしかった。
 それくらいずるいことができるヒトだったら、シンくんを嫌いになれたかもしれないのに。
「ウソみたい」
 そっとつぶやいてみる。いまこんなことを考えてるなんて。
 少し前まで、今日はなんて素敵な一日なんだろうって思ってたのに。
 ウソみたい。ウソみたい。さっきまで天国にいたのに。

   6

 そのまま、泣きながらタクシーに乗り込んだ。戸惑う運転手さんに行き先を教えながら、器用に泣きじゃくり続ける。
 10分くらい移動して、目的地に着くとお金を払って外に出た。
 ちっちゃなアパートの103号室のイヤホンを押す。反応なし。むかついて連打する。
「んだよ、うるせーな!」
 そう言ってドアを開けたのはオキだった。
「――フン、おまえだろうと思った」
「なんでアヤってわかったの?」
「消去法だ、しょうきょほう」
 オキはダルそうに頭をゴシゴシかいた。
「こんな非常識な時間に連絡もせずにいきなり来るやつっていったらさ、泣いてるおまえだって決まってんだよ」
「だってだって」
 乱暴な言葉が、そのときはとても優しくきこえて、おさまりかけてた涙がまたぼろぼろとこぼれ落ちてくる。
「だって、誰かに会いたかったの。会って慰めてほしかったの。アヤね、とーってもかわいそうなんだよ?」
 はいはい。オキがテキトーに言いながら部屋に入れてくれた。
 オキの部屋は相変わらずいろんなものがたくさんありすぎてウザかった。音楽関係のよくわかんないキカイとか本とか、CDとかそこらじゅうに散らかっている。
 台所の洗濯カゴには洗濯物がこれでもかって積みあげられてて汚い。どうしてこんなになるまでほっとくんだろう。もっとこまめに洗濯すればいいのに。これじゃカビ生えちゃうよ。
 このまま洗濯開始しちゃおうかと本気で悩みかけてて、思い直す。そうだ、アタシいま失恋したてのかわいそうな女の子だったんだ。というわけで失恋したての女の子らしく、オキが出してくれたおっきなクッションに座って大人しく座っておくことにした。
 ぼうっとしてると、オキが麦茶を出してくれる。
「ビールがいい」
 おねだりしてみる。
「おまえふざけんなよ」
 そう言いながらも、缶ビールをプシュってあけて渡してくれた。
「ありがと」
 もらったビールを一気に半分くらい飲んで、長く息を吐く。
 オキはそれを無視して、テーブルに参考書みたいなの広げてなんかチェックしていた。勉強中みたい。
 勉強の邪魔した罪悪感をちょっぴり感じながらもずうずうしくきいてみる。
「なにがあったかきいてくれないの?」
「話したらきいてやるよ」
 そう言いながらも、参考書から目を離さない。
「今日ね、シンくんにフラれちゃったの」
「ええ?」
 思い切って打ち明けたら、オキは驚いて声をあげた。
「シンに? なに、そもそもおまえ、シンが好きだったのか?」
「そんなに意外?」
「ぜんぜん。――いや、おまえがシンを気に入ってるのは知ってたけどさ。おまえ惚れっぽいから誰かを好きになるなって日常茶飯事だし、本気じゃないだろって思ってた。ていうかおまえから告白したの?」
「もう、おまえおまえってうるさい!」
 ああ、悪い。シンはめんどくさそうに謝ると身を乗り出してきた。
「とにかく詳しく話せよ」
 今夜のオキは、会ってからずっとよそよそしかったので、こうやってアタシを見てくれてるとなんかすごく嬉しく感じる。アタシはちょっとだけ満足してシンくんとのことを話した。
 初対面のときに感じたことや、初ライブで立ってられなくなったこと。帰りにホテルに行っちゃったこと。それからはずっとシンくんに夢中で、メールや電話をいっぱいしたこと。
 今日もエッチしてたこと。エッチしながら好きって言っちゃったこと。そのあとに、ほかに好きなヒトがいるから愛せないって言われてフラれちゃったこと。
 話す順序とかぐちゃぐちゃで、オキがちゃんと理解してくれたのかわかんなかったけど、オキはじっときいてくれていた。
 喋っているうちにあのときの気持ちがよみがえってきて、止まっていた涙がまたこぼれだす。アタシの涙タンクは意外と大容量だった。
「ね、音楽つけていい?」
「お、おう」
 なんかドギマギしてるオキがうなずく。
 ちょっとぶっちゃけすぎちゃったかな。エッチしながら告白したことまで話さなくてもよかったかも。
 コンポのスイッチを入れると、BREATHの曲が流れてきた。『冷たい手』って曲。
「あ、悪い」
 慌ててオキがリモコンを奪おうとする。たぶんこのままきいてたら、シンくんが歌ってる曲が流れるんだってピンときた。
 でもいま流れている曲のバージョンならシンくんが歌ってるんじゃない。ハルトくんが歌ってるはずだった。
 洋輔がドラムで、オキがベースで、ハルトくんがギターと歌を歌っていた、あの頃の『冷たい手』。
「ね、この歌リピートにしてていい?」
「ああ、好きにしな」
 リモコンを奪うのをやめて、オキが床に寝転んだ。
 イントロが終わって、歌が始まる。

『Happy daily like a dream
 There's just "two" of the world
 なんとなく いつか叶うんじゃないかって思っていた夢を
 キミは他の誰かと 知らないうちに見ていたんだね』

 なんでいままで気がつかなかったんだろう。
 ハルトくんの歌声をききながら、そのことに気がついた。

『冷たくて持てない
 わがままをいうこの子のために
 ボクは缶コーヒーを両手であたためてあげた
 キミは少しだけぬるくなったコーヒーを手に持って ニッコリと微笑む
 そしてふたり並んで歩くんだ
 ボクの冷たい心が 手から伝わらないように
 缶コーヒーで冷えた両手を ポケットであたためながら』

「ねえ」
 ハルトくんの歌声はとても優しい。歌を聞き逃さないようにしながら、オキにそっと問いかける。
「――ん?」
「この歌って、ハルトくんが作ったんだよね?」
「ああ、そうだよ。去年の6月くらいかな。ハルトが作って持ってきたんだ」
 ――去年の6月。洋輔とリリが付き合いはじめたのは、確かおととしの12月くらいだったかな。
「もしかしてこれって、リリのこと歌ってるのかな?」
「……さあな。知らねえよ」
 でも、そうなんだ。
 この歌が教えてくれているもの。

『Happy daily like a dream
 There's just "two" of the world
 いまはもう 手には入れられないんだってわかっている夢を
 諦められないなら キミの幸せを壊すしかない』

 ハルトくんはずっとリリを好きだったんだ。
 たぶん、リリが洋輔と付き合うようになるずっと前から。

『熱すぎて持てない
 わがままをいうこの子のために
 ボクは缶コーヒーが冷めるまで持っててあげた
 キミは少しだけぬるくなったコーヒーを手に持って ニッコリと微笑む
 そしてふたり並んで歩くんだ
 ボクの冷たい心が 手から伝わらないように
 缶コーヒーを持ってたほうで キミの手をにぎりながら』

 歌は、夏を経て、冬になる。
 季節がめぐる間も、ひとりの女の子を想い続けている歌。
 でも女の子は、他のヒトを好きになっちゃったんだ。
「……誰かを好きになるって、むずかしいね」
 オキは答えてくれない。代わりに冷蔵庫からビールを取り出して飲みだした。半分目を閉じるようにして、アタシのことそっちのけで曲をきいている。
 そういえば、オキが誰かを好きになったって話、きいたことない。
 ちょっと無茶な質問をしちゃったのかも。
 それとも、オキはオキで秘密にしている恋があったりするのかな。無言で音を拾うベーシストに、この曲はどんなにきこえてるんだろう。

『Happy daily like a dream
 There's just "two" of the world
 さよならは 言わないけれど きっと永遠に交わらないね
 諦められないけど キミが幸せならそれでいいんだ』

 抱え込んだ膝に顔をうずめて小さくため息をつく。これから、どんな顔してシンくんに会えばいいんだろう。
 アタシをいちばんに愛してくれてないシンくんに次会ったとき、アタシはどんな顔して、なにを話すんだろう。
 シャワーも浴びずにホテルから出てきたカラダ中から、シンくんの匂いがする。
 他に愛してるヒトがいるくせに。
「……そんな深刻になるなよ」
 ぽつりとオキが言った。
「どうせおまえのことだ。1週間も泣けばシンなんてどうでもよくなるって」
 そのデリカシーのない発言に、本気でムカついた。
 でも、心のどこかに、そうなのかなって思う自分もいて、言い返せなかった。
 アタシには、この歌を作ったハルトくんの気持ちを100%は理解できないもの。自分以外のヒトを好きになった女の子を、それでも想い続けるなんて、そんなことがどうしてできるんだろう。
 そんな恋したことない。
 リリもそう。あの子みたいに、フラれた男のことをいつまでも引きずったりするような気持ちも、アタシは知らなかった。
「すぐに忘れるさ。そしてまた、別のヤツを好きになればいい」
 見透かしたようにオキは言ってお酒を飲む。

『Happy daily like a dream
 There's just "two" of the world
 そしてふたり並んで歩くんだ
 ボクの冷たい心が 手から伝わらないように』

 そうなのかな。シンくんを好きな気持ちは、少しすればなくなるのかな。
(アヤ)
 シンくんがアタシを呼ぶ声を思い出してみる。
 笑顔で呼んで、少し目を細める。頭をなでてくれる。手をにぎってくれる。
 アヤ。アタシの名前をとても優しくゆってくれる。
 アタシはそのたびにキュンとして、胸が締めつけられて、ついついシンくんから目をそらしてしまったりしていた。
 頭をなでてくれると気持ちがポカポカした。
 にぎってくれる手があったかくて、ずっと放さないでいてほしかった。
(アヤ)
 ずっとそばにいてくれたらいいのにって、気がついたら夢に見るようになっていた。

『Happy daily like a dream
 There's just "two" of the world
 そしてふたり並んで歩くんだ
 キミの手のあたたかさに 少しだけ救われながら』

 ガマンできなくなって、アタシはまた泣いた。大きな声で。
「悪い、言いすぎた」
 慌ててオキが謝ってくる。それでも、涙は止まろうとしない。
 オキはタオルを持ってきてくれたり、ティッシュをそばに置いてくれたりしたあと、最終的にどうしたらいいかわかんないという感じで近くに座って頭をなでてくれた。
「ごめんな。よしよし、シンのやつひどいよな。まあ大丈夫だって。おまえ結構かわいいからまたすぐいい男見つかるって。俺はカンベンだけどな」
 ひとこと多いオキの慰めかたは、まるで子供をあやすみたいで。でもそれがいまはヤじゃなかった。
 だからアタシも安心して、子供みたいに泣いたんだ。

 ハルトくんの歌声を遠くにききながら。

『Happy daily like a dream
 There's just "two" of the world
 でもそれでも ボクはこの気持ちを
 なくすことができない どうしてもなくせないんだ』


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Posted by 千歳 at 2009年10月06日 22:52 EDIT
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