タクミは五歳。今日は保育園で焼きいも大会があります。タクミの大好きな焼き芋が食べられる日です。
山田タクミは五歳。
山田権三郎が五十歳の時にうっかりこしらえてしまった息子です。
今日はタクミの通う保育園で、焼き芋大会があります。
保育園の芋畑で育てているお芋をみんなで掘って、焼き芋にして食べるのです。
タクミは焼き芋が大好きでした。
「とうちゃん。ぼくね、今日は大好きなやきいもが、お腹いっぱい食べれるんだよ!」
朝、タクミは権三郎に自慢しまくりました。
「畑で自分で掘って、それを食べるんだよ! レンジでチンした作り方と違って、いい匂いがして、とおっても甘いんだよ!」
「そうか、そうか。それは楽しみだねえ」
権三郎はニコニコして言いました。
「うん!」
タクミは権三郎よりも、もっと大きな笑顔でうなづきました。
そして保育園。タクミは、それはそれは一生懸命お芋を掘りました。
大きなお芋がとれたときは、うれしくてたまりません。
他の人に食べられないように、マジックで名前を書いておこうかとも思いました。
保育園では意外と無口で、ほとんど主張というものをしないタクミがここまで考えるというのは、よほどのことです。
(――けれど、だいじょうぶ)
山になったお芋を眺めながら、タクミは思います。
(これだけとれれば、きっとみんなの分あるよね!)
もう、お芋を焼くのが楽しみでなりません!
そして、いよいよ保育園の先生たちが、お芋を焼き始めました。
ドラム缶の中に、アルミホイルで包んだお芋と落ち葉とを入れて焼く作り方です。火がついた落ち葉が風で飛んだりしにくいので、とても安全な作り方なのです。
ドラム缶に詰められた落ち葉が煙を吐き出しながら、パチパチと楽しい音を立てます。
(まだかな?)
まだまだ。お芋は生のままです。
(もうできたかな?)
まだまだ。芯がかたくておいしくないですよ。
(もういいかな?)
まだまだ。――けど、もうあとちょっとです。
「みんな、できたよ!」
そして先生が、そう高らかに宣言しました。
イスに座って待っていた園児たちから歓声が上がります。
そうして先生たちは、イスに座って待っている園児たちに焼き芋を一つずつ配りはじめました。
タクミもワクワクしながら、おいしく焼けたお芋をもらえるのを待ちます。
(……あれ?)
けれど先生は、タクミにはなかなかお芋を渡してくれません。
そのうち、なんだか落ち着かない気分になってきました。
だって、みんなはもう、手にあつあつの焼き芋を持っているのに。
おいしそうにして、食べているのに。
自分の手にだけは焼き芋がありません。
先生が、渡してくれないのです。
(なんでぼくだけもらえないんだろう……)
「おいしいねー」
みんな、とてもおいしそうにお芋を食べています。
ホクホクと、真っ赤なほっぺが今にも湯気をたてそうでした。
(先生、ぼくのこと、忘れちゃったのかな?)
みんなが食べているお芋を、自分だけ食べられない。
みんながもらっているお芋を、自分だけがもらえない。
タクミはとても悲しく、とても恥ずかしい気持ちになりました。
そしてみんなを真似て、お芋を持っているフリをし始めました。
自分だけがお芋をもらえていないことを、誰にも知られたくなかったのです。
両手で熱々の焼き芋を持っているふうにして、口はフウフウと、熱いお芋に息を吹きかけているようにしました。
そしてちっちゃなお口を精一杯膨らまして、まるでお芋を食べているように動かしました。いくら口を動かしても、口の中に甘い、おいしい味はまったくしないのですけれど。
けれどタクミは、まるでおいしいお芋が口の中にいっぱいになっているみたいに、一生懸命モグモグと口を動かしたのでした。
焼き芋大会は終わりました。
結局、タクミはお芋を少しも食べられないままでした。
タクミを迎えに来た権三郎が、ニコニコしながらタクミに聞きます。
「今日は楽しかったかい?」
「…………」
「お芋はおいしかった?」
権三郎の問いに、タクミはなにも答えられませんでした。
「――タクミ?」
権三郎がなにかを感じて、タクミを問いただそうとしたそのときです。
「あの――」
保育園の先生が、権三郎にそう話しかけました。
「実はタクミ君、焼き芋を食べられなかったみたいなんです」
「ええ? ――そうなのか、タクミ? 朝、あんなにも楽しみにしてたのに、どうして……具合でも悪くなったのか?」
「…………」
タクミはギュッと権三郎の手を握りました。そして激しく首を振ります。
「――タクミ」
「あの――タクミ君に、あとでこれをあげてもらえませんか」
そう言って、先生が権三郎に差し出したのは、大きな焼き芋が二本入った袋でした。
「あ!」
それを見て、タクミは思わず声を上げました。
あんなにおっきなやきいもが、二つも入ってる!
(ひょっとしてあれ、ぼくが食べていいの……?)
「あとで食べさせてあげてくださいね」
「ヒック」
気がつけばタクミは泣き出していました。
先生がタクミになにか言ったような気がしましたが、それはこのときのタクミにはもう聞こえませんでした。

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