タクミは六歳。大好きな二人の友達同士に仲良くなってもらうために、タクミは二人に金魚をプレゼントすることを思いつきました。
山田タクミは六歳。
山田権三郎が五十歳の時にうっかりこしらえてしまった息子です。
タクミは、山田家の狭い玄関におかれた水槽を、じっと眺めていました。
水槽の中では、昨日夜店で権三郎がゲットした、ちっちゃな金魚が十匹も泳いでいます。
タクミにとって、生き物を飼うのはこれが始めての経験でした。
だから、嬉しくて仕方がなかったのです。
金魚はどれもが真っ赤で、水槽の中をゆうゆうと泳いでいます。
「そうだ」
タクミはいいことを思いつきました。
「この金魚を、シズカちゃんとシンヤくんにも分けてあげよう!」
シズカちゃんとシンヤくんはタクミの大事なお友達です。
タクミは二人のことが大好きでした。
けれどひとつだけ、彼らが三人で仲良く遊ぶには、致命的な問題があったのです。
シズカちゃんとシンヤくんは、とても仲が悪いのでした。
二人の仲の悪さと言ったら近所でも有名なほどで、二人が声の届くところにいたら必ず口げんかが始まり、最後には殴り合いのケンカにまで発展してしまうこともざらでした。
シズカちゃんとも、シンヤくんとも仲のよいタクミは、いつも二人の間で板ばさみにあってしまい、たまったもんじゃありません。
それになによりも、タクミは二人がケンカをしているのを見るのが嫌でたまりませんでした。
タクミは二人のことが大好きだったから。
だから、二人には仲良くしてもらいたかったのです。
タクミは思っていました。自分が二人と仲良しなのだから、シンヤくんとシズカちゃんも本当はきっと気が合うはずだと。
そう、なにか小さなきっかけさえあれば、きっと二人は仲良くなれる。
同じものをみんなで飼う。
それはとてもよいきっかけになると思ったのです。
早速タクミは、金魚を四匹バケツに入れてお出かけしました。
シンヤくんとシズカちゃんとに二匹づつです。
「シンヤくーん!」
玄関口。シンヤはタクミの持っているバケツの中の金魚を見て言いました。
「金魚は少し前まで飼ってたけど、全然おもしろくないから捨てちゃった。だからその金魚もいらないよ」
「あ、そうなんだ」
ガックリ。
しょんぼりしながら帰ろうとするタクミの小さな後姿をみて、シンヤが首を傾げます。
「お、おい、待ってよ!」
子供心になにかを感じたのでしょうか。シンヤはタクミを呼び止めました。
「ん、なに?」
「え、ええと……あ、そうだ! ザリガニだったら飼ってもいいかなあ」
「え、ザリガニ?」
「そうアメリカザリガニ。あいつかっこいいよなあ!」
その日、タクミは近所の熱帯魚屋さんで、ザリガニを三匹買いました。
一匹百円。三匹で三百円。
それは、タクミの一か月分のお小遣いでした。
これでしばらくは、大好きなガムが食べたくなってもガマンしなくちゃいけません。
けれど、それでも二人が仲良くなってくれるのなら。
それなら、タクミは三百円つかってもいいって思ったのです。
そして次の日。
タクミは水槽の中をのぞいて驚きました。
大切に育てていた金魚が三匹、ザリガニたちに食べられてしまっていたのです。
水面には、三匹分の金魚の頭が、プカプカ浮いています。
死んだ金魚の目が、タクミをじっと見つめているような気がして、タクミは泣き出してしまいました。
権三郎が、タクミを柔らかく抱きしめ、よしよししながら言います。
「ザリガニはね、金魚のようなちっちゃな魚を食べちゃうんだよ」
「食べちゃうの?」
「そうだよ。金魚とザリガニは、同じ水槽に入れちゃダメなんだ」
知らなかった。
金魚とザリガニは、一緒にしちゃだめなんだ……。
「ごめんね」
金魚も、ザリガニも、タクミは大好きだったから。
だから金魚とザリガニ同士も、きっと仲良くしてくれるだろうと思っていたのです。
死んでしまった金魚の眼から顔をそむけながら、タクミはごめんねを繰り返しました。

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